その声は導きか
鞄の中から何やら聞こえたような気がした。
中を覗き込んでみたが、
音の出るようなものは何もなかった。
鞄を閉じようとしたら、
「ねえ、持ち歩くだけなら本棚に戻しておきなよ」
と、今度ははっきりと声が聞こえた。
それは年齢性別のない不思議な声だった。
だけどそれがどこからやってくる声なのか、僕にはすぐに分かった。
「分かってますがな。仕事の合間に読もうと思ってますねん」と、僕は答えた。
「おいら、こんな中で無意味に傷むの、やだからね」
本はつっけんどうにそう言った。
「分かってますって」
「どうだか・・・」
「本当に、今日から読み始める予定なんだ」
「そう言って、人間は自分に都合のいいように言い訳ばかりするんだ」
「悪かった。だけど、仕方なかってんがな」
本は返事をしなかった。
・
・
・
一週間程前、朝方に見た夢の話である。
明け方の夢と言うものは鮮明な事が多いのか、おおよその会話も覚えている。
不思議なもので、夢の内容を口に出すと当分の間忘れない。
それを家内に話すと、自分はそんな事はないという。
目が覚めた時は、わりとはっきりとした像を結んでいるが、
時を待たずして霞の向こうに消えていくと。
それは兎も角、確かに鞄の中には遅々として読み進んでいない本が入っている。
そこで僕は考えた。
・
・
・
成穂堂の開店時間は12時からと小売店らしからぬのんびりさである。
いやいやさぼり癖がある訳ではない。
理由は端折るが仕事の組み立て上、そうせざるを得なかった。
そうせざるを得ないと判断した瞬間に、物事は歩みをとめる。
これまで僕は、仕事の組み立てを真剣に見直そうとしていなかった。
例えば、10時開店にすると、本当に仕事に支障をきたすのか?
再び端折るが、何とかやり繰りできるのではないだろうか。
そうすれば、昼食時間もしっかり取れるし、本を手にする時間も増える。
自ずとお客も増えるはず。
「己の都合で店の営業時間を変えるってどうよ?」
自分でもそう思うが、営業時間を長くして不便になる人はいない。
お客も喜ぶ、僕も喜ぶ。八方丸く収まる。
多分、一石二鳥以上になるはずだ。
という事で、成穂堂は先週から10時に店を開けている。
お客への効果はてき面である。これには驚いた。
しかし、大いなる計画に反して、昼食後は見事に寝落ちてしまう。
これでは、最初の目論見と違うではないか。
ん~、では夕方にも少し休憩をとるか。
などなど、つまらない事に試行錯誤する僕であった。
「お~い、なるほど~!仕事の事で試行錯誤しろよな~!!」
鞄の中から例の声が聞こえる・・・
中を覗き込んでみたが、
音の出るようなものは何もなかった。
鞄を閉じようとしたら、
「ねえ、持ち歩くだけなら本棚に戻しておきなよ」
と、今度ははっきりと声が聞こえた。
それは年齢性別のない不思議な声だった。
だけどそれがどこからやってくる声なのか、僕にはすぐに分かった。
「分かってますがな。仕事の合間に読もうと思ってますねん」と、僕は答えた。
「おいら、こんな中で無意味に傷むの、やだからね」
本はつっけんどうにそう言った。
「分かってますって」
「どうだか・・・」
「本当に、今日から読み始める予定なんだ」
「そう言って、人間は自分に都合のいいように言い訳ばかりするんだ」
「悪かった。だけど、仕方なかってんがな」
本は返事をしなかった。
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一週間程前、朝方に見た夢の話である。
明け方の夢と言うものは鮮明な事が多いのか、おおよその会話も覚えている。
不思議なもので、夢の内容を口に出すと当分の間忘れない。
それを家内に話すと、自分はそんな事はないという。
目が覚めた時は、わりとはっきりとした像を結んでいるが、
時を待たずして霞の向こうに消えていくと。
それは兎も角、確かに鞄の中には遅々として読み進んでいない本が入っている。
そこで僕は考えた。
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成穂堂の開店時間は12時からと小売店らしからぬのんびりさである。
いやいやさぼり癖がある訳ではない。
理由は端折るが仕事の組み立て上、そうせざるを得なかった。
そうせざるを得ないと判断した瞬間に、物事は歩みをとめる。
これまで僕は、仕事の組み立てを真剣に見直そうとしていなかった。
例えば、10時開店にすると、本当に仕事に支障をきたすのか?
再び端折るが、何とかやり繰りできるのではないだろうか。
そうすれば、昼食時間もしっかり取れるし、本を手にする時間も増える。
自ずとお客も増えるはず。
「己の都合で店の営業時間を変えるってどうよ?」
自分でもそう思うが、営業時間を長くして不便になる人はいない。
お客も喜ぶ、僕も喜ぶ。八方丸く収まる。
多分、一石二鳥以上になるはずだ。
という事で、成穂堂は先週から10時に店を開けている。
お客への効果はてき面である。これには驚いた。
しかし、大いなる計画に反して、昼食後は見事に寝落ちてしまう。
これでは、最初の目論見と違うではないか。
ん~、では夕方にも少し休憩をとるか。
などなど、つまらない事に試行錯誤する僕であった。
「お~い、なるほど~!仕事の事で試行錯誤しろよな~!!」
鞄の中から例の声が聞こえる・・・