絵ハガキを受け取って
一通の絵ハガキが届いた。
その古典的ともいえる通信手段に何とも言えぬ懐かしさと共に、
一体誰から?何か変事か?と、胸がざわめいた。
差出人をみると、僕が学生時代にお世話になった書店の先輩社員Iさんからだった。
身内で「まるき」と呼ばれていたその書店は、当時、別格的な規模と売上を誇っていた。
或る年の棚卸しの日、店長が全従業員を前にして、しわがれた声で言った。
「我が店が~、あ~、単独店としての~、え~、売上がですねぇ~、世界のトップに~、なりました。利益も・・・。この快挙も~、え~、ひとえに~・・・」
まあ、そんな内容だった。
そんな事を言われても、学生だった僕にはピンと来ない。
それも身近な数字ではないので、余計に漠然としたものだった。
ただ、その尋常ではない忙しさに、書店とはこうも儲かる商売なのかと感心したものだ。
学生時代の4年間、その書店に勤めさせてもらったことは、僕の一生の宝である。
少しIさんとの思い出について書きたい。
Iさんはみなからカーリーと呼ばれ、文学と乗馬をこよなく愛した。
カーリーというあだ名はその名の通り、いつも髪の毛をカーリーヘア(死語やな)にしていたからだ。
またそれが、なんとも似合っていた。
仕事には厳しい人だったが、人情味があり、いつも僕たち学生を弟や妹のように可愛がってくれた。
僕の寝ぼけたような話を根気よく聞いてくれ、決して適当な返事はしなかった。
姉御肌という言葉がぴったりの人だった。
Iさんはのちに店長となり、将来を嘱望されたが、唐突(と僕には思えた)に全く違う業界に去った。
いつも、出版、書店業界の行く末を案じていらっしゃった。
Iさんの退職時、僕は半独立的な立場で新刊書店を運営していたが、
そのニュースは版元を通して駆け足で僕の耳にも届いた。
Iさんが書店業界からいなくなるというのは、僕には考えられない出来事だった。
すぐにIさんに連絡を取り、会いに行った。
Iさんは真新しい事務所で、僕を待っていてくれた。
戸惑う僕にIさんは言った。
「Ken、そんな顔をするな。書店の仕事はとてもやりがいのあるものだ。
でもね、それ以上にわたしにはどうしてもやりたい事がある。
今、やらないと、ずっと後悔する事になると思う。多分これがわたしの一生の仕事になる。
これまでも、これからも、わたしはあなたがたの仲間だし、あなたがたへの思いは変わらない。
いつでも訪ねておいで」
僕は気の効いた返事が出来なかった。
帰り際にIさんは言った。
「kenもいつかわたしの気持ちが分かる時がくる」
そして、清々しく笑った。
その笑顔をみて、僕はすとんと心が落ち着ちつくのを感じた。
勿論、細部に渡ってその時の会話や感情を覚えている訳ではないが、
おおよそ、そのような内容だった。
絵ハガキには、「スマホにメールをしたが、返事がない。電話番号、変わった?大丈夫?
ところで、今月末、まるきOB会をやる。○○君に連絡をとり、二人とも参加せよ」
と、懐かしい文字が躍っていた。
そうか、去年末に携帯会社を変えたのを、Iさんに連絡し損ねていた。
Iさんの元にはエラーメッセージが戻っているはずなのだが・・・
そのあたりの大雑把さは昔と変わらない。
姉御が招集を掛けたとなると、どう都合をつけてでも参加せねばなるまい。
甘酸っぱいような、ほろ苦いような思い出が一杯詰まったまるき書店とその仲間たち。
パソコンもスマホも便利なものは何もないけど、それはそれで楽しくいい時代だった。
何年、何十年会わなくても、きっと再会した瞬間から当時にタイムスリップするのだろうなあ。
近頃、人に会う機会があれば多少の無理をしても会うものだ、と思うようになった。
懐かしい人には尚更そう思う。
知らぬ間に年を取ってしまったのだなあ。
その古典的ともいえる通信手段に何とも言えぬ懐かしさと共に、
一体誰から?何か変事か?と、胸がざわめいた。
差出人をみると、僕が学生時代にお世話になった書店の先輩社員Iさんからだった。
身内で「まるき」と呼ばれていたその書店は、当時、別格的な規模と売上を誇っていた。
或る年の棚卸しの日、店長が全従業員を前にして、しわがれた声で言った。
「我が店が~、あ~、単独店としての~、え~、売上がですねぇ~、世界のトップに~、なりました。利益も・・・。この快挙も~、え~、ひとえに~・・・」
まあ、そんな内容だった。
そんな事を言われても、学生だった僕にはピンと来ない。
それも身近な数字ではないので、余計に漠然としたものだった。
ただ、その尋常ではない忙しさに、書店とはこうも儲かる商売なのかと感心したものだ。
学生時代の4年間、その書店に勤めさせてもらったことは、僕の一生の宝である。
少しIさんとの思い出について書きたい。
Iさんはみなからカーリーと呼ばれ、文学と乗馬をこよなく愛した。
カーリーというあだ名はその名の通り、いつも髪の毛をカーリーヘア(死語やな)にしていたからだ。
またそれが、なんとも似合っていた。
仕事には厳しい人だったが、人情味があり、いつも僕たち学生を弟や妹のように可愛がってくれた。
僕の寝ぼけたような話を根気よく聞いてくれ、決して適当な返事はしなかった。
姉御肌という言葉がぴったりの人だった。
Iさんはのちに店長となり、将来を嘱望されたが、唐突(と僕には思えた)に全く違う業界に去った。
いつも、出版、書店業界の行く末を案じていらっしゃった。
Iさんの退職時、僕は半独立的な立場で新刊書店を運営していたが、
そのニュースは版元を通して駆け足で僕の耳にも届いた。
Iさんが書店業界からいなくなるというのは、僕には考えられない出来事だった。
すぐにIさんに連絡を取り、会いに行った。
Iさんは真新しい事務所で、僕を待っていてくれた。
戸惑う僕にIさんは言った。
「Ken、そんな顔をするな。書店の仕事はとてもやりがいのあるものだ。
でもね、それ以上にわたしにはどうしてもやりたい事がある。
今、やらないと、ずっと後悔する事になると思う。多分これがわたしの一生の仕事になる。
これまでも、これからも、わたしはあなたがたの仲間だし、あなたがたへの思いは変わらない。
いつでも訪ねておいで」
僕は気の効いた返事が出来なかった。
帰り際にIさんは言った。
「kenもいつかわたしの気持ちが分かる時がくる」
そして、清々しく笑った。
その笑顔をみて、僕はすとんと心が落ち着ちつくのを感じた。
勿論、細部に渡ってその時の会話や感情を覚えている訳ではないが、
おおよそ、そのような内容だった。
絵ハガキには、「スマホにメールをしたが、返事がない。電話番号、変わった?大丈夫?
ところで、今月末、まるきOB会をやる。○○君に連絡をとり、二人とも参加せよ」
と、懐かしい文字が躍っていた。
そうか、去年末に携帯会社を変えたのを、Iさんに連絡し損ねていた。
Iさんの元にはエラーメッセージが戻っているはずなのだが・・・
そのあたりの大雑把さは昔と変わらない。
姉御が招集を掛けたとなると、どう都合をつけてでも参加せねばなるまい。
甘酸っぱいような、ほろ苦いような思い出が一杯詰まったまるき書店とその仲間たち。
パソコンもスマホも便利なものは何もないけど、それはそれで楽しくいい時代だった。
何年、何十年会わなくても、きっと再会した瞬間から当時にタイムスリップするのだろうなあ。
近頃、人に会う機会があれば多少の無理をしても会うものだ、と思うようになった。
懐かしい人には尚更そう思う。
知らぬ間に年を取ってしまったのだなあ。