レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -195ページ目

仕事というもの

20年近くお付き合いの続いている不動産屋さんがいる。


政治家のようなお名前の方だが、まるでキューピー人形がスーツを着て歩いているような風体である。


仕事場を覗くと、大概「ねえねえ、ちょっとこれ見てくれる?」と、怪しげな企画書やHPを見せられる事になる。


「前回やっていたやつは?」と訊ねると「あっ、あれはやめた。今度はこれ」と。


やるのも速いが、止めるのも速い。


しかし、それがそこそこ小金を生むから不思議で仕方ない。


兎に角、風変わりな人であるが、仕事を楽しんでいるのは間違いない。


先日、その不動産屋Hさんが、男の子を連れてふらっとやって来た。


男の子は小学5、6年生というところか。


「おや、どうしました?えっ?お孫さんいました?」と言うと


「この子、おいらの甥の子。義姉の孫やねん。後学の為に連れてきてん」と、キューピーのような目をパチクリさせている。


「なるほど。でも、こんな店、反面教師にはなっても、何の後学にもならんでしょ」と言うと


「そんな事ないで。ありふれた所に行ってもそれこそ何にもならん」と仰る。


Hさんは甥っ子の子(又甥でよいのか?)の頭を撫でながら「なっ、へんな店やろ。このおっちゃんの仕事な、宝物探しやねん。A太、おおきゅうなったらな、こういう仕事をせなあかんで」と。


A太くんは「うん、わかった」と、元気よく返事をしている。


僕は、「おかしな事を吹き込んだらあきませんて。Hさんの商売の方が100倍ほどいいですがな」と。


Hさんは「うちらの商売は、そら地道なものやで。出来る事からコツコツとちゅうやつや。kenさんところは、一攫千金の世界やろ」と、笑顔で仰る。


「いや、いや、それは逆でしょ」


そんなつまらん話をしている間に、A太くんは店内をうろちょろし出した。


で、「これなに〜? ええ〜!こんなに高いんか〜」などと、おっさんのように呟いている。


Hさんは「そやろ。びっくりするやろ。このおっちゃんな、宝物を作り出す事も出来るんやで」と。


あかん。このままだと、狐狸の類にされかねない。


「Hさん、兎も角事務所に入りましょや。A太くん、ジュース入れたげるわ」


A太くんはジュースを飲みながら「おじさん、どうやって宝物をつくるの?」と、先程の続きを蒸し返した。


「そんなもの、作られへんわな。Hさんの作り話やがな」と、僕は笑った。


Hさんは真顔で「A太、ほんまやで。事務所に入る手前にショーケースがあったやろ。


あれみんなこのおっちゃんが作ったもんや」


「えっ?」と言うA太くん。Hさんは得意げに続けた。


「小汚い木箱も添えてあって、えろう古そうやろ。値札もつけてない。それがみそやな」


A太くんは頷いている。


「あれ、みんな100均の茶碗や皿や。それを1年ほど土に埋めてから掘り起こすんや。ほんなら、あんな風に化けよる。値段も化けよる。まるでマジックのようやろ」


「A太くん、ウソやで。無茶苦茶言わんとって下さいよ。みな本物の骨董ですがな」


とまあ、Hさんとの会話は毎度どちらが海千山千の世界かになる。


確かに贋物も多い世界でもあるが、幾多の時を乗り越えてきた品々を扱うのは、決して嫌ではない。


長い長い時を経たものでなければ放てないオーラのようなものがある。


彼らを手に取り暫く眺めていると、気持ちがゆったりしてくる。細かく細かく見ていくのだ。


それはどこか、本を手にしている時に共通するものがある。


実は・・・という事ではないが、僕はベストセラーと呼ばれるものを殆ど読まない。


特に意識している訳ではないが、少し年代を遡った作品が好きだ。


その著者の生きた時代背景を思い浮かべるのが、好きなのかも知れない。


そういう意味では、新刊を扱うより古本を扱う方が性に合っているのだと思う。


今は古道具屋としての話題が主だが、店ではそれなりに古本の売買も続けている。


自分が気に入った事しかしないという、実に身勝手な商売だが、


それは僕にとって、人生の大半を占める仕事を持つに当たって、とても大切な事なんだ。


決して器用ではないが、自分の好きな事を続けるべく努力だけはしてきたつもりだ。


どんなに努力をしても辿り着けない事もあるだろうけど、努力をし続けると思わぬものが見つかる。


それは頑張り続けた人にしか見つける事が出来ないものだ。


僕はそう思っている