成穂堂Kenの小さな決意
やっと暑さも和らぎ、過ごしやすくなってきた。
とは言っても、町にはまだまだ痛々しい台風の爪痕が見られる。
店のまわりでも何軒ものお宅が被害に遭っている。
うちと隣り合わせの倉庫は樋が吹き飛んだ。
おかしなもので、一番危ないと思われていたうちの店は、全く被害がなかった。
しかし、世の中いつ何が起こるか分かったものではない。
このままだらだら過ごしていてはいけない・・・
と、これまで同じ事を何度思ったことか。もういい加減にしなくちゃいけない。
隗より始めよという故事成語もある事だ。
凡庸な事で良いのだ。まずは常日頃から気になっていた運動不足の解消を目指すというのが、取っつきやすい。
では、何をする?
・・・手っ取り早く出来そうなのはジョギングだよな・・・
何事も格好から入らないと気が済まない僕は、そんなこんなでランニングシューズを購入した。
ふと思った。ジャージみたいなものも要るんじゃないの。
それからスポーツタオル。
キャップも要りそうな気がする。
TVで、イヤホンみたいなものをして軽やかに走っているのを見るが、あれは何ぞ音楽でも聞いているのだよな。
何だかあれもこれも欲しくなってきた。
そんな事をぶつくさ言っていたら、
「全然、真剣さが足りない。まず、その甘々な根性から叩き直すべきよ」と、言いたげに家内がこちらを見ている。
「ほんとに走るの?」と家内が、いつもの戯言かといった風な顔で言った。
「ほんまやがな。ちょっと準備に日にちが掛かるけど」と言った所で、家内の目が殺気を帯びた。
「分かっておる。みなまで言うな。このシューズさえあれば充分」と、僕は平静を装った。
・・・だけど、ジャージは要るやろ。
それから数日後。散髪店のマスターに
「いやぁ、おいらもジョギングを始めますよ。少しはマスターみたいに健康的な生活を目指しますわ」と。
マスターは「kenさんは夜型でしょ。無理をせずに早めに仕事を切り上げて、その流れで走ったらよろしいわ。ぐっすり眠れますぜ」と。
食事のタイミングは?と、訊ねると、ジョギングの一時間前くらいが良いみたいですよと。
マスターは朝型人間なので、朝食前に走っているとの事。
マスターが言うには、脂肪を燃やしたければ朝、安眠を期待するなら夜が良いと。
きっと、ネットを調べると科学的説明があるのじゃないかと思う。
んじゃ、両方すれば良いじゃないかと思うが、流石にそんなに時間はない。
・・・いや、嘘。体がもたない。
僕の場合、マスターが言うように夜走るのが現実的だ。
で、早起きに慣れてきたら、朝に切り替える大作戦で行こう!
同じなら、贅肉のないお腹の方がイカすもんな。
という事で、昨夜。
町に出てほんの僅か走った所で、ちょっと無理かもと。
そこは非常に柔軟な思考を持つ僕。
まずは歩く事から始めようと、いきなり方針を変更した。
ランニングシューズで歩くのはどうなのか知らないが、
兎も角、今回購入したシューズでウォーキングをする事にした。
運動をしていた頃と比べると、腿まわりは細くなっているのに、腹回りは確実に増えている。
それでも、そこそこ筋力はあると思っていた。
ところが、若干歩くだけで道路の凹凸に足を取られるし、息も上がる。
それも僅か2km弱のほぼ勾配のない道路。
颯爽と歩く自分を想像していたのに、全然違う。
もう殆どよたよたのオッさんだ。
どこまで貧弱な体になっているのか。
映画ではないが、若い頃の面影もない情けない姿のオッさんが、
徐々に輝く目と、凛々しい身体をつくっていく姿を想像しながら、地道に努力をしていくしかない。
まずは慣れる事だ。距離も徐々に伸ばしていけば良い。
思い返すに、僕はこれまで何一つやり続けているものがない。
実に中途半端を絵に描いたような人間だ。
何か一つくらい、精進し続けるものがなくちゃつまらない。
小さな歯車でも、一度回り出すとその力は全体に伝わっていく。
きっと、こう言った事の積み重ねが、これからの人生や仕事の考え方のベースに繋がるような気がする。
大切なのは結果でもないし、モノになったかどうかでもないと思う。
悔いが残らなかったかどうかだと思う。
能書きを垂れていずに歩いてくる!