第828回「パンデモニアム」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

パンデモニアム/プリティ・メイズ

2000年代のプリティ・メイズは、バンド活動が順調ではなかった印象が強い。90年代と同じく、2000年代もロック・シーンの流行が大きく移り変わったのは事実であるが、プリティ・メイズの場合、バンド内部の事情が大きく関係している。

 

長年在籍したメンバーの脱退、ケン・ハマーの体調不良、後に脱退するケン・ジャクソンはバンド活動以外のビジネスで忙しくなっていたようだ。日本公演もなく、特に日本のファンにとってはバンドの実態が見えない時期になった。

 

2010年に入り、久々のアルバム発表にニュースが入った。前作「ウェイク・アップ・トゥ・ザ・リアル・ワールド」(2006年)から実に4年ぶり。それが本作「パンデモニアム」でメンバーは、ロニー・アトキンス(Vo)、ケン・ハマー(g)、ケン・ジャクソン(b)、アラン・チカヤ(ds)、モーテン・サンダガー(Key)。

 

長年のファンにとっては注目すべき点が幾つかある。まずはキーボード奏者の加入だ。90年代以降、バンドはライヴのサポート・メンバーとして鍵盤奏者を何人か起用していたが、正式メンバーとしての加入は久々。

 

またバンドのロゴが、80年代の初期アルバムに使用されたデザインになっている点も見逃せない。メンバーの編成と初期作品のロゴの使用。これは原点回帰の意思表示であり、ここからバンドとして再出発を切るという決意表明と解釈できる。

 

その精神性は、サウンドにも如実に表れている。オープニングを飾るタイトル曲「パンデモニアム」は、メタリックな疾走曲であるのはもちろん、キーボードの使い方(アレンジ)と、その音色が80年代の「フューチャー・ワールド」を想起させる。

 

時代のサウンドを意識するのではなく、プリティ・メイズも最もプリティ・メイズらしい姿が具現化した1曲と言える。サウンドに迷いがないのが素晴らしい。本曲は当時、ライヴでも頻繁に演奏されている。

 

「I.N.V.U」はミドル・テンポのナンバー。本作の中でも代表曲と言えるのが「リトル・ドロップス・オブ・ヘヴン」で、以降のライヴで重要なレパートリーに。2024年2月にクラブチッタ川崎で行われた、ロニーのソロ来日公演でもプレイされた。

 

スネア・ロールが緊張感を高め、そこから一気に駆け抜ける「ワン・ワールド・ワン・トゥルース」、キーボードが全体的に敷き詰められ煌びやかな「ファイナル・デイ・オブ・イノセンス」を収録。「シエロ・ドライヴ」には1969年というワードが使われており、これは名曲「イエロー・レイン」で歌われている歌詞の時代である。

 

「イエロー・レイン」はベトナム戦争をテーマにした反戦ソングと思われるが、こちらの「シエロ・ドライヴ」は舞台が違う。それでも社会情勢に対する問題提起であったり、闇の部分をさらけ出すと言う点ではテーマに共通性が見られる。

 

「イット・カムズ・アット・ナイト」は、トーキング・モジュレーターを使ったギター・プレイが聴き手の耳に残る。アコースティック・ギターを取り入れた「オールド・イナフ・トゥ・ノウ」は、ロニーやケンが得意とするメロディアスなポップ寄りハードロック。

 

重厚感のあるギター・リフが特徴の「ビューティフル・マッドネス」は、サビになると一気にメロディがキャッチーに。これも全体的に敷き詰められたキーボードの煌びやかなアレンジが興味深い。また、アランが叩くシンバルの音が楽曲をパワフルにしている。

 

ラストを飾る「ブレスレス」は、哀愁を帯びたメタル・ナンバー。11曲目「カチン」はボーナス・トラックで、シャナイア・トゥエインのカヴァー曲。調べると女性カントリー・リンガーらしく、メタル・ファンには馴染のない歌手かも知れない。

 

2010年頃から「クラシック・ロック」という言葉を頻繁に聞く機会が増えた。踏み込んで言うと70年代や80年代にデビューしたバンドのサウンドが、古き良き音としてジャンルになり始めたのだ。リアルタイムで過ごした方には奇妙な話であるが、時代が一周廻ったとでも言うべきか。

 

これによってヴェテラン・バンドは、時代のサウンドや流行の音作りに合わせるのではなく、自分たちの得意とする分野を全面的に発揮できるようになった。本作「パンデモニアム」も、その時期に発表された作品だけに、プリティ・メイズの持ち味が遺憾なく発揮されている。

 

本作発表時期にベースのジャクソンが脱退。ジャクソンはアルバム「シン・ディケイド」(1991年)からのメンバーであったので、ファンにとっては残念なニュースだった。本作の日本盤ライナーでは既にジャクソン脱退について触れているので、制作時から脱退は決定的なものだったと考察する。

 

よってツアーは新編成で行われ、映像作品とライヴ盤になった「イット・カムズ・アライヴ~メイド・イン・スイス」(2012年)は、レネ・シェイズがプレイする姿が見られる。