第827回「コミュニケーション・ダウン」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

コミュニケーション・ダウン/ハートランド

英国のバンド、ハートランドがデビューしたのは、ロック・シーンに鬱な空気が充満した90年代初頭。ゆえにメロディアスな正統派ハードロック、ポップスを披露するハートランドにとっては決して良い環境の音楽活動ではなかった。

 

それでも定期的に作品を発表し、日本では一定数のファンを獲得。ハートランドの楽曲の素晴らしさと、日本におけるメロディアスなハードロックのファン層を証明する事となった。本作「コミュニケーション・ダウン」(2002年)は、通算8枚目のアルバム。

 

本作を語るうえで、前作「アズ・イット・カムズ」(2000年)の存在を見逃せない。バンドが90年代に発表したアルバムは、どれもブリティッシュ特有の気品を漂わせるメロディアス・ハードロック/ポップである。

 

しかしながら、ミレニアムの年に発表された前作は、90年代の作品と明確な線引きができるほどワン・ランク上の楽曲が揃えられていた。それは来たるべき21世紀(当時)に向けたバンドの決意とも伺える。

 

本作「コミュニケーション・ダウン」も前作の延長線上にあり、バンドから湧き上がるエネルギーが曲作りに投影された作品と言える。メンバーは、クリス・ウーズィー(Vo)、スティーヴ・モリス(g)、ティム・ヒューイット(b)、フランク・ベイカー(ds)、デイヴィッド・チャップマン(key)。

 

厳密に言うならハートランドはライヴを活発に行うバンドではないので、中心人物のクリスとスティーヴ以外は、レコーディングのためのスタジオ・ミュージシャンという色合いが強いのだが・・・。

 

それはさて措き、内容について。これまでハートランドに接して来たリスナーは、1曲目「イマジン・マイ・サプライズ」に少々驚くに違いない。ここまでハードでエッジの効いたナンバーは、バンド史上初ではなかろうか。そう思うほど勢いのある楽曲だ。

 

クリスもシャウト気味というか、ハイ・トーンを駆使したヴォーカルを聴かせている。それでもサビになると、誰もが一緒に歌えるメロディを配している辺りがハートランドらしい。

 

それに対し「ザ・マン・イン・ジ・アイアン・マスク」は、リスナーが思い描くサウンドに忠実な1曲。クリーン・トーンのコード・カッティングをバックにクリスが味わい深いヴォーカルを聴かせ、サビなるとアップテンポに発展する「ザ・ベスト・オヴ・タイムス」は、構成がドラマティックでありスリリングでもある。

 

ゆったりとした「ファイト・ザ・グッド・ファイト」、ギターのディストーション・サウンドとキーボードの煌びやかな音色が融合した「タイム・アンド・タイド」、ロック然としたサウンドの中に舞うスティーヴィのギター・フレーズが美しい「ザ・ボトム・ライン」と続く。この曲は、選挙を題材にしているようだ。

 

「フォロー・ミー」は、今改めて聴くと興味深い1曲。次作「ムーヴ・オン」(2005年)ではグランド・イリュージョンのアンダース・リドホルムをプロデューサーに迎え、ブリティッシュ・ロック中に北欧の透明感が宿るサウンドを提示するが、本曲「フォロー・ミー」で聴けるヴォーカル・エフェクトは次作の音像を想起させる。

 

アルバム終盤は、浮遊感のある「ブラック・アンド・ホワイト」、パーカッションのように粋の良いリフと哀愁漂うメロディが印象的な「レフュジー」、洗練されたポップ・ナンバー「オール・ハー・オウン・ウェイ」が聴ける。

 

「クラシカル・ブラスト」は万華鏡のような1曲。フラメンコのように情熱的なアコギ、ロック然としたエレクトリック・ギター、そしてドラムの派手なプレイなどを取り入れたインスト曲。以上が本編で、「アイ・ビリーヴ」は日本用のボーナス・トラック。

 

前作の質を継承しながらも、前作とは異なるサウンドの作品。それが本作「コミュニケーション・ダウン」のように思う。その違いはどこにあるのか。紐解いて行くと、本作はキーボードを抑え、ギターを前に出した音作り、及びアレンジとなっている。

 

その効果が本作全体のイメージを作り上げているのだ。つまりハードでエッジの効いた、ロック色の濃いアルバムというイメージである。そういった点において、本作はハートランドというブランドをきっちりと守りつつ、音作りの面で新たなアプローチを行った作品と言える。