第826回「ウォーク・ジ・アース」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ウォーク・ジ・アース/ヨーロッパ

ジャケットを見ただけで、ヨーロッパの音楽性がひとつの極みを迎えた事を証明するかのようなデザインだ。

 

2003年の再結成以降、バンドは80年代の成功に捕らわれないモダンな要素を取り入れたアルバムを発表してきた。作品を重ねるごとにサウンドは、よりスピリチュアルに、よりエキゾチックに深みが増している。

 

ジャンルとして大衆に認識されているハードロックの音を単に組み立てて行くのではなく、「表現する」という行為に軸足を置いてサウンドを構成して行く。そこには明確な意図があり、聴こえる音のひとつひとつに景色が宿る。2010年以降は、更にその傾向が強くなったように思う。

 

これはバンドを初めて、いきなり辿り着ける次元ではない。長年のキャリアの中で熟練され、方向性を見出し、それをサウンドで具現化して到達できるアートの領域である。本作「ウォーク・ジ・アース」(2018年)は、ヴェテランとなったヨーロッパだからこそ表現できた作品と言えるだろう。

 

さてバンドは、前作「ウォー・オブ・キングス」(2015年)と本作の間に、名作「ファイナル・カウンドダウン」の完全再現ライヴを行っている。アルバム発表が1986年なので、2016年は丁度30年目。つまり30周年を記念した特別公演だ。

 

公演は2部構成で、まず当時の最新作「ウォー・オブ・キングス」からの楽曲をフィーチュアした演目、そして「ファイナル・カウンドタウン」完全再現の演目である。この公演は映像作品及びライヴ盤としてリリースされている。

 

正直なところ、メンバー自身は昔を振り返りたいタイプではないと思うので、「ウォー・オブ・キングス」のプレイがバンドにとって主たる目的だった気がする。それほど、メンバーは「今」に拘っている印象が強い。

 

それはさて措き、4年ぶりのスタジオ盤となった本作。メンバーは、これまでと同じくジョーイ・テンペスト(Vo)、ジョン・ノーラム(g)、ミック・ミカエリ(Key)、ジョン・レヴィン(b)、イアン・ホーグランド(ds)である。

 

アルバムはタイトル曲の「ウォーク・ジ・アース」で始まる。ムードを演出する冒頭から、ダウン・チューニングを用いたヘヴィなギター・リフが切り込む。重さに加え、中東音階を取り入れたメロディが宗教的な色合いを醸し出している。「ザ・シージュ」はグルーヴ感が鍵となる1曲。これら2曲は2019年4月の川崎公演で、オープニングに続けて演奏された。

 

アップテンポながら「キングダム・ユナイテッド」は、随所で聴ける重厚なコーラスが無限の広がりを演出。これもどこか神秘的なムードが漂う。アコースティック・ギターとピアノ伴奏を中心とした「ピクチャーズ」は、ゆったりとしながらもシリアスな空気が支配する。ノーラムのギター・ソロが素晴らしい。

 

「エレクション・デイ」はノリの良いロック・ナンバーの側面と、再結成以降に培ったグルーヴの両面が配合された作りに。一転して「ウルヴス」はダーク且つ内向的な1曲。重いギター・サウンドに耳が行くが、ミックが作り出すキーボードの音色が世界観を構築するうえで重要な役割を果たしている。

 

日本のリスナーは「GTO」というワードを見ると学園ドラマを連想しそうだが、本曲は頭文字を略したタイトルではなく、「~を得た」という意味のGOTのようだ。歌詞を見ると「俺たちは成功した(成功を得た)んだ」という一節がある。

 

本曲「GOT」と9曲目「ホウェンエヴァー・ユア・レディ」は、ロックン・ロール的なフィーリングを感じるアップテンポなナンバー。厳密に言うと、それらを現代的な手法と音作りを用いて再構築したような仕上がりに。

 

一方で「ヘイズ」「ターン・トゥ・ダスト」辺りの曲は、徹底的にヘヴィ。そしてグルーヴを溜め込んだ曲。「ターン・トゥ・ダスト」はツアーでプレイされ、日本でも3日間連続で行われた川崎公演にて全日程でセット・リスト入りした。

 

全体的に深みが増し、アートの次元に到達した本作は、ヨーロッパというバンドの音楽性の熟練を物語っている。誤解を恐れずに言うなら、こういった音楽性は誰もが楽しめるものでないかも知れない。

 

それでも商業ベースでなく、アーティストとして表現する道を選択したバンドの精神性は、アルバム「スタート・フロム・ザ・ダーク」(2004年)から依然として貫かれている事実が見えてくる。