第814回「ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール/ボン・ジョヴィ

ボン・ジョヴィのディスコグラフィーの中でも、前作「バーニング・ブリッジズ」(2015年)は、どこか異質な色合いを放つ作品との印象がある。その理由を探って行くと、当時のバンドを取り巻く状況が大きく関係しているはず。

 

もちろん収録曲は素晴らしいが、リッチー・サンボラの不参加にファンは動揺し、タイトルだけが書かれた質素なジャケットに困惑。更にはボン・ジョヴィの新作でありながら、ひっそりと発売されたイメージが強い。後戻りできないといった意味を表す「バーニング・ブリッジズ」という題も、バンドの状況とリンクするものがあった。

 

人によって意見は様々と思うが、「バーニング・ブリッジズ」からは得体の知れない重い空気が感じられるのだ。ある意味、当時を知らないファンが収録曲を聴いて出た言葉が、作品の本当の評価と言える。

 

それから1年後、バンドは次なるアルバム「ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール」(2016年)を発表。本作より、ジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)、デイヴィッド・ブライアン(Key)、ティコ・トーレス(ds)に加え、ツアーでお馴染みのヒューズ・マクドナルド(b)とフィル・X(g)が正式メンバーとなった。

 

長きに渡りボン・ジョヴィと言えば「あの4人」だったので、これは大幅な構造改革と言える。しかしながら、本作で提示した音楽性、そしてバンドとしての活気を取り戻した事を踏まえれば、この時期の改革がプラスに作用した結果と言える。

 

オープニングを飾る「ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール」からして感動的だ。エッジの効いたギター・リフに始まり、聴き手を躍動させるロック・ナンバーとなっている。何と言っても、誰もが一緒に歌えるサビのメロディが素晴らしい。本曲に宿るエネルギーこそ、ボン・ジョヴィのサウンドだ。

 

細かく聴いて行けば、これまで重要な役割を果たしていたリッチーのプレイがない分、サウンドの変化が感じられる。と言ってもフィルはテクニシャンであり、技術的な面だけでなく、フィーリングの面でもボン・ジョヴィのイメージを崩す事無くバンドに溶け込んでいる。良い仕事をしているのは間違いない。

 

「リヴィング・ウィズ・ザ・ゴースト」「ノック・アウト」「ボーン・アゲイン・トゥモロウ」と、活気に満ちた楽曲が目白押しだ。ややムード感のある「レイバー・オブ・ラヴ」は、ロック・ナンバーが連続する前半にアクセントを付ける意味で、良い位置に収録されている。

 

「ローラー・コースター」はミュージック・ヴィデオが制作されているので、本作のリーダー・トラックと見て間違いない。バンドの演奏シーンを柱としながら、遊園地のイメージ映像、そして楽しそうにはしゃぐカップルの様子を盛り込んだ内容は、本曲の歌詞を反映した作りと思う。恋愛のドキドキ感を「ローラー・コースターのようだ」と表現した1曲。

 

ポップでカラフルな「ニュー・イヤーズ・デイ」、シャープなギター・リフが印象的な「ザ・デヴィルズ・イン・ザ・テンプル」と、後半も粋の良い楽曲が続く。その一方で「スカーズ・オン・ディス・ギター」は、アコースティック・ギターを中心としたバラード曲。こういった側面もバンドが持つ魅力のひとつだ。

 

ジョンによるアカペラで始まる「ゴッド・ブレス・ディス・ミス」も聴ける。「リユニオン」は、卒業生に向けて書かれた1曲らしい。しかしながら、ここまで来たが、まだ終わりではない。これから道は続いて行くというテーマは、ボン・ジョヴィのバンド活動にも通ずるものがある。本編のラスト「カム・オン・アップ・トゥ・アワ・ハウス」は、スケールの大きなサウンドが素晴らしい。部分的にスコットランド民謡を想起させる色合いに。

 

以上がスタンダードな収録曲で、13曲目以降は発売国によって内容が異なる。例えば日本盤なら「リアル・ラヴ」「オール・へイル・ザ・キング」「ウィ・ドント・ラン」「アイ・ウィル・ドライヴ・ユー・ホーム」「グッド・ナイト・ニューヨーク」「タッチ・オブ・グレイ」の6曲を追加。計18曲の収録に。

 

他の国では追加が3曲のみという仕様もあるので、日本盤はヴォリューム満点だ。これも長きに渡る日本でのボン・ジョヴィ人気と、バンド側から感謝の意が表されているのかも知れない。

 

軌道修正という言葉が適切かどうか定かで無いが、バンドを取り巻く環境とメンバーの編成を整え、それが音楽性にも反映されたイメージの作品となった。各楽曲とサウンドから、健全なエネルギーが放たれている。

 

本作発表に従い、ボン・ジョヴィは2018年の11月に久々の日本公演を行った。前作「バーニング・ブリッジズ」発表に伴う日本公演はなかったので、見方によってはアルバム2枚分を従えての来日公演と言える。日本のファンは、バンドの「今」のエネルギーを生で感じる事となった。