グランド・ホテル/ロードスター
いつも時代も音楽シーンには期待の大型新人が登場している。しかしながら、単刀直入に言うと短命で終わるバンドが多くなった気がする。特に2000年代に入ってその傾向が強くなった。ネットの普及によってCDが売れなくなった、人々の趣味や価値観が多様化し音楽に興味を持つ層が減ったなど、その背景には色々な理由があるかも知れない。
今回取り上げるイギリスのバンド、ロードスターもデビュー盤である本作「グランド・ホテル」(2006年)が素晴らしく、多くのリスナーに注目されたバンドだった。しかし、もう解散しているバンドだ。ロードスターは、元々ハリケーン・パーティーという名前で地道なライヴ活動を行っていたところ、レコード会社に見出されデビューに至る。
ロードスターを発掘したのは、あのゲフィン・レコードのジョン・カロドナーだったらしい。カロドナーと言えば数々の大物アーティストのブレイクのきっかけを作った仕掛人である。確かに本作に収録された楽曲を聴けば、カロドナーがロードスターに注目した理由は大いに判る。それだけロードスターはインパクトのあるバンドだったのだ。
メンバーは、リッチー・へヴァンズ(Vo)、クリスピー(g)、ジョニー・ロッカー(g)、ロブ・ランデール(b)、クリス・リヴァース(ds)。今やネットで検索してもバンドの情報がほとんど残っていないのが現状であるが、アーティスト写真を見る限り本作を発表した頃のメンバーは20代前半と思われる。
ロードスターの音楽性は、正統的なブリティッシュ・ロックを2000年代に継承したサウンドである。本作「グランド・ホテル」には、正統的であり伝統的なブリティッシュ・ロックのサウンドが満載されている。ただし、レトロな雰囲気が特徴のバンドというわけではない。
1曲目に収録された「レディ・トゥ・ゴー」の躍動感と勢いに満ちたプレイ、そして若々しいエネルギーは、やはり当時の若者だからこそのサウンドと言えそうだ。ガレージ・ロックのようなラフさを残しながらも、演奏はキッチリと構築。ヘヴィな音作りが主流だった2000年代のロック・シーンの中で、ロードスターが提示したサウンドは突き抜けるような爽快感がある。
「ロードスター」「ゲット・ディス」と、キャッチーなロックン・ロール曲が続く。シンプル且つストレートな曲がある一方で、「アウト・オブ・ザ・ブルー」のようにコーラス・ハーモニーが耳を惹くナンバーも。曲自体もゆったりとしており、ライヴで観客が大合唱する光景が浮かんできそうなメロディに。
「レッツ・ゲット・イット・スターテッド」は、グルーヴ感が宿る1曲。8ビートで突き進むロック・ナンバーも素晴らしいが、本曲のように独特のノリを兼ね備えた曲も心地良い。アコースティック・ギターを取り入れてブルージーに始まる「マジック・ハット」も、同じく独特のノリとグルーヴ感を有する1」曲だ。
「ストーン」はハーモニカの演奏が取り入れられており、全体的にカントリー・ロック、サザン・ロックの風味が強い。バラード曲「ミスプレイスド・パラダイス」を聴けば、ヴォーカルのリッチーの表現力の幅広さが判る。パワフルに歌う派手なロック・ナンバーから、本曲のように聴かせる歌唱まで、様々な歌声が堪能できる。
躍動感あふれるギター・リフが印象的な「アール・アイ・ウォント」、骨太なバンド・サウンドが3連譜に乗って進行する「ライアー」と、アルバム終盤はストレートなロック・ナンバーが多い。「ストーン・マイ・ブライト」は、ある意味、エレクトリック・ギターの醍醐味とも言えるノイジーなフィードバックで始まる。
「キープ・イット・アライヴ」は、ラストを締めくくるに相応しい1曲で、前に向かって突き進むアップ・テンポな楽曲に。他の楽曲ではギターのツイン・リードは無かったが、本曲では間奏でツイン・ギターのハーモニーが聴ける。
収録曲を聴くと判るように、ロードスターはメンバーと同世代のリスナーのみならず、60年代や70年代の伝統的なロックを好むファン層にも大いに支持された。1曲1曲を聴いてゆくと、バンドの出身地であるブリティッシュ・ロックの音作りを土台としつつ、アメリカのブルーズ、カントリーなども要素も感じられる。
アメリカやイギリスの伝統的なサウンドを単に再現したのではなく、それらを呑み込んだ当時の若者の解釈が加わり、2006年という時代の中で再構築したのが本作「グランド・ホテル」に収録された楽曲であり、即ちロードスターの音楽性と言えそうだ。
本作発表後、ギタリストが脱退し、次なるアルバムは4人で制作。しかし、アルバムのリリースを告知した時点でバンドは解散もアナウンスした。素晴らしいバンドであったが、結局はアルバム2枚を残して解散の道を辿っている。活動期間は短かったが、本作「グランド・ホテル」が名作である事には変わりない。