第416回「セヴンス・スター」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

セヴンス・スター/ブラック・サバス・フィーチャリング・トニー・アイオミ

アルバム「悪魔の落とし子」(1983年)に従うツアーが終了すると、イアン・ギランがバンドを脱退する。理由は非常に明確で、ディープ・パープルが第2期のラインナップで再結成する事が決まったからだ。当初、イアンは1983年頃にレインボーのマネージャーを通してディープ・パープル再結成の話を持ち掛けていたが、タイミング的にこれが実現しなかったため、ブラック・サバスに参加してアルバムを制作した経緯を持っている。

 

よってディープ・パープルの再結成が決まれば、そちらに行くのは必然的とも言えるのだ。しかしながら、既にバンドとしてのカラーが確立されていたブラック・サバスに、同じく英国を代表するディープ・パープルのシンガーだったイアン・ギランが加入した事実は、アルバムの仕上がりも含めて余りにも強烈なインパクトがあり過ぎた。もしディープ・パープルの再結成が決まってなかったとしても、個性の衝突で結局のところイアンは脱退していたかもしれないが、これは今となっては判らない事。

 

さてトニー・アイオミ(g)は、ここでソロ名義の作品制作に取り掛かる・・・と言ってしまえば非常に簡単な説明となってしまうが、トニーが出版している自伝によると「悪魔の落とし子」のツアーが終わると、様々なオーディション・テープを聴いて新たなヴォーカリストを探したり、オリジナル編成でのブラック・サバス復活に向けたミーティングが行われていたり、引っ越し先の家で発生する怪奇現象に悩まされたりと、頭を抱える様々な出来事を経験していたようだ。

 

ソロ作品には当初、有名なヴォーカリストを多数招いて楽曲を制作する予定だったが、これも各人のスケジュールや契約の問題などビジネス的な事情が絡み合い、最終的にはグレン・ヒューズのみが参加する形でアルバムが制作されている。更にトニーはソロ名義の作品として制作したつもりが、ビジネス的な理由でレコード会社がブラック・サバスに名義にする事を求め、ブラック・サバス・フィーチャリング・トニー・アイオミという何とも変則的な名義でのアルバム発売となった。

 

こういった事情があるので、カタログ上の本作はブラック・サバスの作品として「悪魔の落とし子」と「エターナル・アイドル」(1987年)の間に挟まれているが、実質的にはトニーのソロ作品となっている。参加メンバーはトニーを始め、グレン(Vo)、デイヴ・スピッツ(b)、エリック・シンガー(ds)、ジェフ・ニコルス(key)という顔ぶれ。エリックは勿論、現在はキッスのドラマーとして活躍しているエリックの事だ。

 

ブラック・サバスと言えば、一般的にダークでスローな音楽性を身の上としているイメージが定着しているが、リスナーは御承知のようにアルバム「ヘヴン・アンド・ヘル」(1980年)以降は、俗に様式美ハードロックと形容される楽曲も多数披露するようになっている。先ほども書いたように本作は実質的にトニーのソロ作品だが、バンドでもソロでも楽曲の多くを手掛けているのはトニーである為、本作もここ数作の流れを引き継いだ音楽性に。ただ、シンガーがグレンである事を筆頭に、演奏陣はブラック・サバスのメンバーと異なるので、聴こえてくる音色は本作特有のサウンドとなっているのが大きなポイントだ。

 

3連譜で突き進む「イン・フォー・ザ・キル」からして、勇ましい様式ハードロックといった感じのナンバーで、アルバムのオープニング曲としてのインパクトは大。コンパクト且つキャッチーにまとめられているので、聴き易さも含め、これを1曲目に持ってきた理由は読めてきそう。続くはムードが一転し、泣きのバラード曲「ノー・ストレンジャー・トゥ・ラヴ」。本曲はとにかくグレンのヴォーカルが素晴らしい。また、トニーが弾く泣きのフレーズは絶品だ。トニー=ヘヴィなリフ、ダークなサウンドといったイメージをお持ちの方は、これ1曲聴けば、かなりイメージが変わり、トニーの持つ音楽の深さが解るはず。

 

バラードからこれまた空気をガラリと変え「ターン・トゥ・ストーン」は、一気に駆け抜けるファストなナンバー。ムード感を演出するキーボードの音色から始まる「スフィンクス」はインスト曲で、そのまま「セヴンス・スター」に繋がる。つまり「スフィンクス」は序章のような役割と解釈できる。トニー印のリフを主体にズッシリと進行する「セヴンス・スター」は、ミステリアスな世界観を醸し出しつつも、その中に美しさが垣間見れる作品に。

 

「デンジャー・ゾーン」は、タイトルを見るとレインボーの同曲を想起させるが、これはカヴァーでは無くオリジナル曲。8ビートで進行するシンプルでオーソドックスなメタル・ナンバーではあるが、リフが非常にカッコ良く、シンプルでありながら押さえるところはきっちりと押さえた曲作りが印象的。そういった点では「アングリー・ハート」も同様と言える。「運命の輪」は非常に興味深く、古き良きブルーズ・ロックのフィーリングを取り入れた1曲。「イン・メモリー」は、アコースティック・ギターのアルペジオと、エレクトリック・ギターのディストーション・サウンドを融合させた抒情的なナンバー。

 

ブラック・サバスの代表作を挙げる時、一般的に本作が選ばれる事は無いだろうが、内容的にはとにかく素晴らしい。リスナーの間では、これを好きな方は多いはずの1枚だ。本作に従うツアーは、開始直後にグレンが脱退。レイ・ギランをヴォーカルに加えてツアーが行われている。

 

「ターン・トゥ・ストーン」↓↓

 

 

「ノー・ストレンジャー・トゥ・ラヴ」↓↓

 

 

「デンジャー・ゾーン」↓↓