第415回「時を駆けて」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

レイズド・オン・レディオ~時を駆けて~/ジャーニー

ジャーニーのサウンドをカテゴライズするとハードロックである事に間違いないが、産業ロックと形容されるように、楽曲やバンドの存在自体は、ジャンルやリスナーの枠を飛び越え、もはやポピュラーなものとなっている。それはやはりアルバム「エスケイプ」(1981年)、「フロンティアーズ」(1983年)の成功と、それらに収録されたヒット曲の影響が大きい。これら2作によってジャーニーは、一躍、時のバンドとなり、年月の経過と共に、これらのアルバムで提示したサウンドは、ひとつの時代を象徴する色合いも持ち始めている。

 

しかし光が強いほど影も濃くなり、バンドは長期ツアーで体力、精神力を消耗。アーネル・ピネダが加入した時期のバンドを追ったドキュメンタリー作品「ドント・ストップ・ビリーヴィン」(2013年)の中で、ニール・ショーン(g)が当時を振り返り、成功と引き換えに失ったものについて語るシーンがあるが、それはニールだけでなくメンバー全員がそれぞれに失ったものがあるようだ。「フロンティアーズ」の成功、そして世界的な人気を得る一方で、バンド内部は徐々に歪みが生じて来ていた。

 

スティーヴ・ペリー(Vo)やニールは、個々にソロ作品の制作を行うようになり、バンドとしての活動が停滞気味に。リスナーの間ではメンバーの不仲説も流れるようになった。不仲というのもデマや噂ではなく、ある意味、事実だが、これもメンバー各人が精神共に疲れ切っていたために、とにかくジャーニーとは距離を置いた活動がしたかったのではないかとも受け取れる。

 

ようやくジャーニーとしてのアルバムの制作に取り掛かるが、リズム隊であるロス・ヴァロリーはレコーディングに参加せず、事実上バンドを離脱状態に。スティーヴ・スミスも数曲のみの参加で、もはやジャーニーはバンドというよりはスティーヴ・ペリー、ニール、ジョナサン・ケイン(Key)のプロジェクト的色合いが強くなって行く。本作「レイズド・オン・レディオ~時を駆けて~」(1986年)の歌詞カードに掲載されたグループショットに、メンバーがこの3名しか写っていないのも、そのため。

 

バンド内部はガタガタであったが、ジャーニーの人気は凄まじく、本作も発売前の予約だけで相当数を記録しアルバムも大ヒット。しかしながらバンド活動は限界で、ツアーが終了するとバンドは解散する事になり、本作がジャーニー最後のアルバムとなった。勿論、現在は再結成したジャーニーが現役で活動しているが、それは後の話であり当時はこれがラスト・アルバムだったのだ。

 

2作で提示したメロディアスなハードロック作品の流れを踏まえつつも、本作はそれ以上にギター・リフがフュージョン的と思わせる楽曲が多く、全体的には「エスケイプ」「フロンティアーズ」辺りの作品とは異なった印象を与える仕上がりに。各楽曲がよりソフトになった印象を受け、ある意味、こちらの方がロックを聴かないリスナーにもアピールできそうな普遍性が増しているとも言える。それは1曲目「ガール・キャント・ベルプ・イット」から顕著に表れている。

 

「ポジティヴ・タッチ」「スザンヌ」は軽快でアップテンポな楽曲で、特に「ポジティヴ・タッチ」の方はサックスの音色やソロが取り入れられているので、ゴージャスな色合いとなっており、これは当時の新境地とも言える。「トゥ・ユアセルフ」は本作収録曲の中ではストレートなハードロックと呼べそうな1曲で、キーボードも前に出して洗練された音作りでありつつもエッジの効いたギターが栄える作品。アーネル加入後に再録音されアルバム「レヴェレイション」(2008年)DISC2に、それは収録されている。

 

「ラヴ・サムバディ」は、ディストーションでパワー・コードを弾くのでは無く、クリーンな音でのコード・カッティングを中心とした音作りとなっており、哀愁を帯びながらも跳ねるようなノリを感じさせる楽曲。「愛の贈り物」は、ジャーニーの持つひとつの側面であるバラード曲。「レイズド・オン・レディオ」はストレートなハードロック・ナンバーで、「アイル・ビー・オールライト」は和み系のゆったりとした1曲。

 

「過ぎ去りし想い」も「ラヴ・サムバディ」辺りの曲と同じく、サウンドを構成するギターのリフがフュージョン的であり、典型的なハードロックとは一線を引く曲調だ。「アイズ・オブ・ウーマン」は哀愁系の曲で、ジョナサンが弾くキーボードが透明感を与え、切々と歌い上げるスティーヴィの声が素晴らしい。「永遠への想い」はラストを飾るに相応しい壮大なバラード。

 

バンドが大衆に、よりアピールする事を意識したかどうかは定かで無いが、「フロンティアーズ」がハードなら、こちらはソフトな面が強く出たアルバムとなっている。とは言え、各楽曲が高品質な作品である事は間違いなく、ニールのギター・ソロ、フレーズも相変わらず絶品。本作に従うツアーはリズム隊にサポート・ミュージシャンを起用して行われるが、先ほども書いたようにバンド再建にはならず、本作を最後にジャーニーは解散。再結成作「トライアル・バイ・ファイヤー」が出るのは1996年。約10年後の事だ。

 

リフもエンディングのソロも絶品の「過ぎ去りし想い」。ニール・ショーン万歳!↓↓

 

 

「スザンヌ」↓↓

 

 

「アイズ・オブ・ウーマン」↓↓