第417回「エレクトリファイド」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

エレクトリファイド/ピンク・クリーム69

リスナーが思い描くピンク・クリーム69のサウンド像を確立させたのは、やはり初期に発表したアルバム2作品「ピンク・クリーム69」(1989年)、「ワン・サイズ・フィッツ・オール」(1991年)の影響が大きい。これらのアルバムに収録されたキャッチーなロック・サウンドは、ハロウィン登場以降にのシーンに根付いたドイツ産のバンド=メロディック・スピード・メタルといったイメージに属さない個性的なサウンドを提示し、日本でも多くのファンを獲得する。

 

しかし、ピンク・クリーム69もシーンで生き残って行く為には90年代の時代のサウンドを避けて通る事は出来ず、暗さと重さを内包するアルバム「ゲームズ・ピープル・プレイ」(1993年)を制作。同作の音楽性を巡ってバンド内で人間関係に亀裂が生じ、アンディ・デリスはバンドを脱退している。御承知のようにアンディは、その後、ハロウィンに加入して現在に至る。

 

一方、ピンク・クリーム69はデイヴィッド・リードマン(Vo)を迎えて再出発を切り、「チェンジ」(1994年)、「フード・フォー・ソート」(1997年)といったアルバムを継続的に発表。とは言え、これらの作品はグランジ系のサウンドを取り込んだ空気を内包する楽曲が多く、かつてのリスナーが満足する楽曲が満載された作品とは言い難いアルバムだった。また、アートや表現技法という解釈はできるが、哺乳瓶の中にイモムシが入ったデザインの「フード・フォー・ソート」のジャケットは、聴き手を選ぶというものだ。

 

そういった方向性を示していたピンク・クリーム69だが、90年代も終わりに近付いた頃に発表したアルバムで、迷いが吹っ切れたかの如くメロディアス・ハードロック路線に返り咲き、多くのリスナーに、あのピンク・クリーム69健在を強く認識させる事になる。その作品が本作「エレクトリファイド」(1998年)である。

 

バンドの編成はデイヴィッド、アルフレッド・コフラー(g)、デニス・ワード(b)、コスタ・ツァフィリオ(ds)という面々。つまり、例えばメンバー・チェンジをきっかけに音楽性や方向性を変えたのでは無く、ここ数作と同じ編成でありつつ、楽曲の方向性は初期を思わせるハードロック・サウンドへと変化させたのだ。デイヴィッドは非常に声が良く、上手いヴォーカリストで、どんな楽曲でも歌いこなせるシンガーである為、前2作のようなダークな楽曲も歌うが、やはりこういったキャッチーなロックを歌えば非常に声が活き活きしている印象を受ける。

 

SEのようなパートを経てバンド・サウンドが切り込む「シェイム」によって幕を開ける本作。エッジの効いたロック・サウンドでありつつ、明るく親しみ易いメロディが満載。そういった方向性は「ブレイク・ザ・サイレンス」「ルージング・マイ・フェイス」「バーン・ユア・ソウル」などでも具現化されている。「ブレイク・ザ・サイレンス」は、ギター・ソロのフレーズも絶品だ。

 

メロディアスでキャッチーである事を前提にしながらも、アルバムとしてはヴァリエーションに富んだ曲調が揃えられており、「ストレンジャー・イン・タイム」は、ややミステリアスなムードを発散する。重心を据えたように進行するリズムが柱となるが、サビのメロディ、間奏のギター・ソロなどは一緒に歌えるようなメロディが用いられている。「エレクトリファイド」は、ハードロックである事に間違いないが、随所で聴けるテクノ風味のリフが面白い。

 

本作中で最もメタル寄りな「オーヴァー・ザ・ファイアー」は、D.C.クーパー(ロイヤル・ハント)とラルフ・シーパース(プライマル・フィア)が参加。「ハイヤー・カインド・オブ・ライフ」は、グルーヴィなノリが特徴的な1曲。「ロケット・ライド」「ゴーン・アゲイン」はバラード系、「ベスト・フォー・ユー」は静から動へといった感じに展開を見せる楽曲。

 

1998年の時代性を考えれば、本作に収録されている楽曲は時代の最新のサウンドでは無かったが、特にここ日本ではメロディック・ロック、正統派なロック・サウンドを求めるリスナーが大勢おり、本作は非常に高い評価を受けた。とにかく本作のサウンドには、迷いが無く潔い。その精神性を主体として、バンドの持ち味と魅力を遺憾なく楽曲に投影し、更にそれらがリスナーが求める要素と一致した作品と言える。

 

90年代中期はデイヴィッド・リードマンが加入したピンク・クリーム69=ヘヴィでダークな音楽性というイメージが出来上がった時期もあったが、それはごく僅かであり、本作以降は、ある意味、従来のメロディアス・ハードロックを披露するバンドとして再認識されている。次作からも、基本的な音楽性は変わらず、日本でも一定のファンやリスナーがいつの時代にも存在している。

 

キャッチーなロックの決定版「ブレイク・ザ・サイレンス」↓↓

 

「ハイヤー・カインド・オブ・ライフ」↓↓

 

 

「ルージング・マイ・フェイス」↓↓

 

 

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