第78回「更なる飛躍」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

サイレンス/ソナタ・アークティカ


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フィンランド発のソナタ・アークティカは、正に彗星の如くシーンに姿を現したバンドだった。ここ日本でもファースト・アルバム「エクリプティカ」(2000年)が発表されると共に、瞬く間に人気に火がつき新人としては異例の売り上げを記録。世界中の様々な国から、物凄い数の新人バンドがデビューする中で、ソナタ・アークティカは登場と同時に早くも注目された異例のバンドであった。しかし、その成功は何と言っても作品の素晴らしさ、そして非凡な才能が注ぎ込まれた数々の魅力的な楽曲が大きく作用した事は間違いない。


その「エクリプティカ」は、4人編成でレコーディングされた作品であったが、同作発表後のツアーより専任キーボード奏者が加わり、更にはベーシストが交代し、トニー・カッコ(Vo)、ヤニ・リマタイネン(g)、ミッコ・ハルキン(Key)、マルコ・パシコスキ(b)、トミー・ポルティモ(ds)の5人編成として精力的なライヴ活動を展開していた。そして、その編成で制作された2作目のアルバムが本作「サイレンス」(2001年)である。厳密に言うと、ここ日本では「エクリプティカ」と「サイレンス」の間に、「サクセサー」(2000年)という企画EPが発表されているのだが。


男の低い声のナレーション「オヴ・サイレンス」から、疾走曲「ウェブアレジー」に繋がってく冒頭場面に、当時のファンが期待していたソナタ・アークティカ像の全てが凝縮されていると言っても良いオープニングである。その「ウェブアレジー」は、タイトルが示す通りウェブをテーマにした楽曲であり、パソコンやインターネットが一般家庭に普及し始めていた2001年頃にこういったテーマを取り上げていた点は、当時からすれば若手バンドらしい現代的な題材の1曲であった。


幻想的なイメージの出だしから、一転して2バス連打の疾走曲となる3曲目「フォールス・ニューズ・トラヴェル・ファスト」は、中間部でリズムが変化しドラマティックな展開が設けられている。男女の電話でのやり取りがSEで使われた4曲目「ジ・エンド・オヴ・ディス・チャプター」も、3曲目とは曲調は異なるものの、手の込んだアレンジや複雑な展開が設けられ、この辺りが当時としては、バンドが提示した新たな方向性であった。


歌メロのみならず、ギターやキーボードに至るまで全てのメロディが美しい「ブラック・シープ」は、アップテンポな楽曲と美しいメロディが融合した名曲で、本曲を好きなファンは多い。中盤でギター、キーボードが高速3連譜で弾きまくり、その後、各パートのソロに流れる展開がスリリング。また、歌メロもキャッチーで曲もコンパクトにまとまられている事から、本作発表後に発売されたEP「オリエンテーション」(2001年)で、実質的なリーダー・トラックとして使われた。


静かなイントロを経て16連譜進行へと展開する「ランド・オヴ・ザ・フリー」は、ソロの後にライヴ演奏時に観客との掛け合いを想定して作られたようなパートが登場する。続く「ラスト・ドロップ・フォールズ」は、透明感に満ちた純粋なバラード・ナンバー。ヤニの美しいギター・フレーズにも注目したい。8曲目「サン・セバスティアン(リヴィジテッド)」は、本作以前に発表されていたEP「サクセサー」に収録され初登場となった、同曲のキーボード・パートに手を加え、より洗練された感じに仕上げたニュー・ヴァージョン。オリジナルより一層、煌びやかな印象を受ける。


ミドル・テンポで独特のムードを醸し出す「シング・イン・サイレンス」は、ライヴ演奏時にトニーが「静かに。厳粛な曲だ」といった感じの言葉を述べる事から、美しさとシリアスさが融合したような雰囲気の曲。意図的にだと思うが、曲のエンディングは突然途切れるような終わり方をするアレンジとなっている。10曲目「レヴォントゥレット」はインスト曲で、ヤニとミッコのテクニカルなプレイをフィーチュアした曲。次の「タルラー」も、北欧ならではの透明感溢れるミドル・テンポの作品だ。


12曲目「ウルフ・アンド・レイヴン」は、後にバンドの代表曲のひとつとなる1曲で、とにかく疾走するスピード・ナンバー。トニーも他の楽曲とは違い、声を荒げて野太い感じで力強く歌い上げる。曲の中盤には、バロック音楽を想起さるドラマティックな展開が聴ける。「リスペクト・ザ・ウィルダーネス」も同じくファストな楽曲で、これは日本盤のみ収録。アルバムの最後を飾る「ザ・パワー・オヴ・ワン」は、本作収録曲中で最も複雑な構成を持つ大作だが、その分、他の曲に比べれば判りやすさに欠けるのが少々、難点。


本作「サイレンス」は、前作「エクリプティカ」よりも、楽曲がより起伏に満ちた展開が設けられ、少々、音楽的に比較するとニュアンスが異なるかも知れないが、「ザ・パワー・オヴ・ワン」などは、プログレッシヴ・ロック的な色合いも兼ね備えた楽曲となっている。また、トニーがキーボードを兼任して制作された前作は、ソロ・パートやギターとキーボードの掛け合い部分などでは、ソング・ライターのトニーらしくメロディに重点を置いたフレーズが多く聴かれたが、本作ではミッコによる、テクニックを存分に駆使したキーボードのフレーズを各所で聴く事が出来る。


他に前作と比較した際の違いと言えば、ナレーションから「ウェブアレジー」に繋がって行く冒頭の場面、電話でのSEがオープニングに設けられた「ジ・エンド・オヴ・ディス・チャプター」など、楽曲の世界観に準じたSEやナレーションを取り入れ、より演出面で手の込んだ作風になっている。デビュー作に続き、「サイレンス」も海外のバンドのCD売り上げとしては驚異的な数字を記録し、日本での人気を更に高める事となった。そして遂に、2001年に初来日公演が実現し、全国各地でチケットは売り切れ、当日券目当てで会場に足を運んだファンが券を買う事ができず、会場の外で涙するという事態まで生み出した。その初来日公演を収録したライヴ盤については、次の機会に取り上げる事にしたい。

では、名曲中の名曲「ブラック・シープ」↓↓



http://www.youtube.com/watch?v=WuY1G_WSS-Y


透明感に満ちた美しいバラード「ラスト・ドロップ・フォールズ」↓↓



http://www.youtube.com/watch?v=S5u95_2z3FY


ヤニとミッコが弾きまくる「レヴォントゥレット」↓↓



http://www.youtube.com/watch?v=M4zxeWC8S5o


最後に私の個人的観点から取り上げる「フォールス・ニューズ・トラヴェル・ファスト」↓↓


http://www.youtube.com/watch?v=OmY6K2sIL34