精神科を訪れる人たち ― その入口はさまざま
精神科専門医のヤンです。
「精神科に行く」と聞くと、多くの方は、本人が強い悩みを抱えて自ら足を運ぶ姿を思い浮かべるかもしれません。でも実際の診察室では、必ずしもそうとは限りません。精神科の入口は、思いのほか多様なのです。
たとえば、眠れない日が続いたり、気分の落ち込みがとれなかったりして、「これはおかしい」と自分で気づいて来院される方。こういう方は、ご自身で納得したうえでいらしているので、治療もスムーズに進みやすい傾向があります。
一方で、動悸や頭痛などの体の不調を心配して内科を受診し、「検査では異常がないので、心の影響かもしれませんね」と紹介されて来られる方もいます。こうしたケースでは、「本当はここじゃないと思うんだけど…」という戸惑いを抱えながらの受診になることも少なくありません。
また、ご家族や職場の同僚など、周囲の方に勧められて来る場合もあります。身近な人だからこそ気づける変化というものがあり、「一度相談してみたら?」という一言がきっかけで、長年の苦しさから抜け出せる方もいらっしゃいます。
ちなみに、思わず苦笑してしまうような理由でいらっしゃる方も、まれにおられます。以前、浮気が何度も発覚したという男性が、恋人から「あなた、病気なんじゃないの?精神科に行ってきたら?」と言われ(おそらく半ば呆れてのひと言だったのでしょう)、素直にそのまま来院されたことがありました。
もちろん、躁状態など病的な背景がある場合には診察の意味がありますが、いわゆる「浮気性」そのものは、精神科で治すようなものではありません。
精神科は万能の場所ではなく、扱えること・扱えないことがある、というのも正直なところです。
こうして見てみると、「誰が受診を望んでいるのか」という視点は、精神科ではとても大切です。本人の意志の強さは治療の続きやすさに直結しますし、逆に、周囲のひと押しが回復のきっかけになることもあります。
精神科の診察室には、本人と周囲の思いが交差する、さまざまな物語が持ち込まれてきます。気軽に立ち寄る場所ではないけれど、必要以上に構えなくてもよい場所——そんな「ちょうどよい距離感」で知っていただけたらと思っています。