コンビニメンタルクリニック?


ネットでメンタルクリニックを検索していると、こんな言葉が目に飛び込んでくること、ありませんか?
「当日初診OK」
「診断書、その日のうちに発行します」
駅前などアクセスの良い場所にチェーン展開し、ウェブサイトでそうしたフレーズを打ち出しているメンタルクリニックが、最近増えてきました。
気軽に受診できることから、俗に「コンビニメンタルクリニック」と呼ばれることもあるようです。


そもそも、従来のメンタルクリニックはなぜ予約が取れない?


「メンタルクリニックに電話したら、初診は1か月待ちと言われた…」
そんな経験をされた方は、きっと少なくないはずです。

私が精神科病院で働いていた頃、退院される患者さんの通院先を探すのも仕事のひとつでした。評判の良いクリニックに問い合わせをしてもらっても、「初診は数週間〜数ヶ月先まで埋まっています」と言われることが本当に多かったのを覚えています。

あまりに先の予約しか取れないと、「遠回しに断られているのでは…」と感じてしまう方もいるかもしれません。でも、実はそうとも限らないんです。

精神科では、一人の患者さんが長く通院されることが多く、診察にも時間がかかります。そのため、どうしても新患の枠を多く設けることが難しい。むしろ、今通われている患者さんの診療の質を守ろうとする配慮の結果、初診が取りづらくなっている——そんな側面もあるのです。


そこに現れた「コンビニメンタルクリニック」

そんな中で存在感を増してきたのが、冒頭に挙げたようなチェーン展開型のクリニックです。ネットで検索すればすぐに見つかり、その日のうちに予約が取れる。駅前の通いやすい立地で、仕事帰りにも立ち寄れる。「今すぐ診てほしい」という患者さんの受け皿になっているのは間違いありません。

もちろん、精神科の専門トレーニングを受けた医師が勤務している施設が大半でしょう。ただ施設によっては、週に数日だけ非常勤の医師が多数在籍してたり、精神科専門医や指定医としてのトレーニングを受けていない医師が診療を担当していたりする場合もあると聞きます。


便利さの裏で、こんな声も


実際、当院にはこうしたクリニックから移ってこられる患者さんも少なくありません。その理由としてよく聞かれるのが——

 •初診は早く受けられたが、再診の予約が取りづらい
 •予約を取っても、待ち時間が長い
 •受診のたびに担当医が変わってしまう

といったものです。「最初は便利だと思ったけれど、続けて通うには….」と話される方もおられます。


大切なのは、自分に合った場所を選ぶこと


とはいえ、「コンビニメンタルクリニック」を否定したいわけではありません。初診予約が取りづらいクリニックが多い中で、こうした医療機関が一定のニーズを満たしているのは紛れもない事実です。不安や苦痛ですぐに診て貰いたい患者さんにとってはとてもありがたい存在です。

大切なのは、医療機関にはそれぞれ役割や特徴があるということ。

「今すぐ話を聞いてほしい」のか、「じっくり同じ先生と向き合いたい」のか。

自分が何を求めているのかを少し立ち止まって考えてみる。そのうえで受診先を選ぶことが、きっと一番納得のいく一歩につながるのではないかと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​

「おためごかし」という言葉


ふとした折に思い出す言葉のひとつに、「おためごかし(御為ごかし)」というものがあります。
日常であまり耳にする機会は多くないかもしれません。意味をごく簡単に言えば、
表面上は相手のためを装いながら、実際には自分の利益や都合を優先している
といった振る舞いを指す言葉です。

たとえば、お店の店員さんが商品を勧めるときに、本当は売上を上げたいのに「お客様のためですよ」と口にする——そんな場面は、比較的イメージしやすい例かもしれません。こうしたケースでは、勧める側もどこかで「自分の利益のためでもある」と薄々わかっていることが多いものですし、お客さんの方でもリップサービス程度と理解してることでしょう。


問題は「無意識のおためごかし」

ただ、精神科の臨床の場で私が考えさせられるのは、もう少し厄介な種類のものです。

それは、本人が心から「相手のため」と信じているケースです。

悪意があるわけではありません。むしろ純粋な善意で行われている。けれども、その行為の背景に、
自分の価値観を通したい、自分が安心したい、自分の不安を解消したい——そうした、本人も気づいていない自己都合が、そっと紛れ込んでいることがあります。

この「無意識のおためごかし」は、本人に自覚がないぶん、周囲から指摘されても「そんなつもりはない」と受け取られがちです。そこが、この問題のむずかしいところだと感じています。

親子関係のなかで

こうした構造がとりわけ根を下ろしやすいのが、親子関係です。

「あなたのためを思って言っているのよ」
「あなたの将来のためなんだから」
「親として当然でしょう」

もちろん、その多くは本当に子どもを思う気持ちから出た言葉でしょう。けれども、その言葉の裏側に、親自身の価値観や不安、期待といったものが混じり込み、結果として子どもの気持ちが置き去りにされてしまう——そういう場面も、残念ながら少なくありません。
長い年月のなかでこうしたやりとりが積み重なると、子どもの側には
「自分の人生を、自分のものとして扱ってもらえなかった」
という感覚が、静かに澱のように残っていきます。大人になってから親との関係に強い葛藤を抱え、外来にたどり着く方も少なくありません。(但し、このような悩みの方は当院よりはカウンセリングを受けられる医療機関が的確だと思います。)


近年「毒親」という言葉が広く使われるようになりました。その背景にも、こうした構造への痛みが反映されているのかもしれない——と、話を聞きながら感じることがあります。


「あなたのため」という言葉

臨床を続けていてしみじみ思うのは、
「あなたのため」という言葉ほど、慎重に使うべき言葉はないということです。

私たちはみな、自分の価値観や経験というレンズを通して世界を見ています。そのため、自分が「相手のためになる」と信じていることが、相手にとっても同じ意味を持つとは限りません。
むしろ受け取る側にとっては、重圧になったり、支配のように感じられたり、ときに自尊心を傷つけられる言葉になってしまうこともあるのです。

自分の口から出る言葉は、所詮どこかで自分の利益に沿うようにできている——そのくらいに意識しておくのが、案外ちょうどいいのかもしれません。


善意が人を縛ることもある

善意は、人を支える大きな力になります。けれど同じ善意が、ときに人を縛る糸にもなる。その両面を、臨床の場では何度も目にしてきました。

本当に相手のためを思うのであれば、
「これは、本当に相手のためなのだろうか」
「ただ自分が安心したいだけではないだろうか」
と、ときどき立ち止まって自分に問い直してみる

そんな余白があってもいいのではないかと思います。
私自身、診察室で患者さんと向き合いながら、同じ問いを何度も自分に投げかけています。

相手の人生は、最終的には相手自身のものです。

その当たり前のことを忘れないでいることが、人と人との関係を健やかに保つうえで、案外いちばん難しく、いちばん大切なことなのかもしれません。

心の不調と、精神科の役割について


最近の外来で、20〜30代の女性の方から、こんなご相談を受けることが増えています。
気分が落ち込む・涙が止まらない・イライラしてしまう・人間関係がつらい

すでにレディースクリニックでPMS(月経前症候群)と診断され、低用量ピルなどで治療中の方もいらっしゃいます。

「どうしたらいいのか分からない」という思いで来られる方がとても多く、そのつらさは本当によく伝わってきます。


気持ちが揺れるのは、決して弱さではありません

気分の変化は、脳や体の状態だけで決まるわけではありません。
仕事のプレッシャー、人間関係、恋愛、家族との関係、睡眠不足、月経周期——さまざまな要因が重なって、心は影響を受けます。

特に20〜30代は、環境や役割が大きく変わる時期。気持ちが揺れやすくなること自体は、珍しいことでも、おかしいことでもないのです。


精神科でできること

精神科では、抑うつ状態・不安・不眠・気分の不安定さなどを診察し、必要に応じて薬物療法や生活面でのアドバイスを行います。
薬によって症状が大きく改善し、「受診して楽になった」と言っていただけることも少なくありません。


精神科だけでは、解決できないこともあります

一方で、外来でお話を聞いていると、職場の人間関係・恋愛の悩み・家族との葛藤・過去の体験など、生活の中にある問題が深く影響しているケースも多くあります。
こうした問題はとても大切なものですが、薬だけで解決できるものではありません。
精神科は「人生のすべての問題を解決する場所」ではなく、心の不調を医療の面から支える場所です。


心のケアは、さまざまな面から

状態を整えていくためには、さまざまなサポートが力を合わせることが大切です。
たとえば、婦人科でのPMS治療、カウンセリング、生活習慣の見直し、職場環境の調整、周囲の理解やサポート——精神科は、その中のひとつの役割(主に薬物療法)を担います。
医療だけにすべてを任せるのではなく、生活全体を少しずつ整えていく視点が、回復への近道になることが多いです。


回復に向けて、一緒に取り組むということ

診察の中では、投薬だけでなく、睡眠の改善(寝る前のスマホ控え)やお酒の量を見直すこと、軽い運動を取り入れるなど生活面でのアドバイスをお伝えすることがあります。
こうしたことは「言われなくても分かっている」と感じる方も多いと思います。
でも、「分かっていること」と「できること」は、必ずしも同じではありません。
大切なのは、完璧にこなすことではなく、「やってみよう」という気持ちで、少しずつ試してみることです。
うまくいかない日があっても、それを一緒に考えるのが診察の場でもあります。

反対に、「どうせ無理」「それができないから来ているのに」という気持ちが強い状態では、どんな治療も効果が出にくくなってしまうことがあります。これは患者さんのせいではなく、そういう気持ちになってしまうこと自体が、心の不調の一部でもあります。
だからこそ、「難しいと感じている」ということも、ぜひ診察の中で正直に話してください。そこから一緒に考えていくことができます。


「うまく付き合っていく」という選択肢

心の問題は、薬を飲めば必ず完全に治る、というものばかりではありません。
でも——自分の状態を理解すること、環境を少し整えること、必要な医療を受けること——この積み重ねで、状態が安定していくことは確かにあります。
精神科は、その過程にそっと寄り添いながら、あなたの生活を支えるお手伝いができればと考えています。