「鬱(うつ)は大人のたしなみですよ。それぐらいの感受性を持ってる人じゃないと俺は友達になりたくない。こんな腐った世の中では少々気が滅入らないと……。

社会はおかしい、政治は腐ってる、人間の信頼関係は崩壊してる、不安になる。正常でいるほうが難しい」


これは俳優であり文筆家でもあるリリー・フランキーさんが、あるインタビューで語っていた言葉です。


初めて目にしたとき、どこか腑に落ちるものがありました。今の世の中はどこか息苦しくて、それでも多くの人が平気な顔をして日々をやり過ごしている。電車の中で、職場で、家の中で。みんな、本当はちょっとずつ疲れているんじゃないかと思うのです。


社会が悪い、誰かが悪い、とこぼしたいわけではありません。ただ、「しんどいな」と感じているのが自分だけじゃないと知るだけで、ふっと肩の力が抜けることがあります。


診察室にも、毎日たくさんの方がやってきます。本当は、こうして心を痛める人が少なくて、私のような医療者が暇をしているほうが、きっと健やかな社会なのでしょう。それでも現実には、笑顔の裏で何かを抱えた人たちが、今日も静かにドアを叩きます。



「鬱は大人のたしなみ」という言葉は、弱さを擁護するものではなく、きちんと感じながら生きている証なのだと思います。落ち込む夜があるのは、ちゃんと世界を受け止めているからかもしれません。

精神科専門医 Dr. ヤンです。

当院では初診の患者さんにはこれまでの身体の病気だけでなく、精神科にかかったことがあるかどうかお伺いしています。(予約の時点でも確認しますが…) 

全く精神科が初めてという方もいれば、他の病院やクリニックに通っていたけれど、いろいろな理由で当院に来られる方も多くいらっしゃいます。



「どうして前の病院をやめたのですか?」



引っ越しや職場がかわり単に距離や時間的に通いにくくなり通院先をかわるのはわかりやすいですが

そうでなさそうな場合は私は率直に「前のところではどうして治療を続けなかったのですか?」とお聞きすることがあります。すると、よく耳にするのはこんなお話です。


  • 初診は割とすぐ診てもらえたのに再診からは予約時間通りに行っても1時間以上待たされることがしばしば
  • 初診では丁寧に診てもらえたけれど、2回目からは流れ作業のようだった
  • 行くたびに先生が違って落ち着かなかった



こうした不満が重なって、「ここでは続けられない」と感じ、転院を決意されるようです。もちろん当院でもすべてを完璧にできるわけではありませんが、「ここなら続けられる」と感じて通っておられるのであれば幸いです。

(じっくり患者さんの話を聞く時間をもうけることとお待たせしない事は限られた診療時間の中では両立しえないことなのでどのクリニックでも悩むところでしょう)



突然来なくなる、でもまた戻ってこられる



一方で、当院に通っていたのに急に来られなくなる方もいます。別の病院に移られる場合も一定数おられるかと思いますが、しばらく時間が経って不思議と「再初診」として戻って来られる方が多いのも特徴です。


例えば、治療が一段落して「また何かあったら来てくださいね」と一度終結された方が、しばらく経って体調を崩して再び来られるケース。これはわかりますが…..

予約に来られずに通院が途絶えた方が、忘れた頃にまるで何事もなかったかのようにしれっと(笑)、再初診として来院されることもあります。


もし自分なら無断キャンセルしたことが「気まずくて行けない」と思い他の新しい所を探すでしょうが…、患者さんには患者さんの事情があるのでしょう。(ここはダメだと見切りをつけて他に行かれてやっぱり戻って来られたのかも?と) そのときは気持ちを切り替えて、いつも通り診察するようにしています。



治療の続け方は自由に選んでいい



大切なのは、治療をどう続けていくかを患者さん自身が納得して決められることだと思っています。当院で治療を続けるのも一つの選択ですし、他の医療機関に移りたいと思われるのも自然なことです。(ただし、他院からの転院に対して全て対応しかねる場合があります。詳しくは当院の診療スタイルを参照して頂ければと思います。)




患者さん側としては言い出しにくい事とは思いますが、嫌な顔をすることはありませんし、むしろ不満を抱えながらなんとなく通い続けることの方が、お互いにとって良くないと感じます。

なるべくは担当医としっかり話し合いながら治療に関して決めていただけるのが一番だと思っています。

(どうしても言い出しにくい場合は次の予約をとる時に「まだスケジュールがわからないので後日わかったら電話で予約をとります」と次回予約をとるのを回避して来なくなるという手段もあります。😝)



通ってくださる方の背景や事情は本当にさまざまです。だからこそ、診察を通して出会う一人ひとりが、私にとっても日々の学びになっています。


精神科を訪れる人たち ― その入口はさまざま

精神科専門医のヤンです。

「精神科に行く」と聞くと、多くの方は、本人が強い悩みを抱えて自ら足を運ぶ姿を思い浮かべるかもしれません。でも実際の診察室では、必ずしもそうとは限りません。精神科の入口は、思いのほか多様なのです。

たとえば、眠れない日が続いたり、気分の落ち込みがとれなかったりして、「これはおかしい」と自分で気づいて来院される方。こういう方は、ご自身で納得したうえでいらしているので、治療もスムーズに進みやすい傾向があります。

一方で、動悸や頭痛などの体の不調を心配して内科を受診し、「検査では異常がないので、心の影響かもしれませんね」と紹介されて来られる方もいます。こうしたケースでは、「本当はここじゃないと思うんだけど…」という戸惑いを抱えながらの受診になることも少なくありません。

また、ご家族や職場の同僚など、周囲の方に勧められて来る場合もあります。身近な人だからこそ気づける変化というものがあり、「一度相談してみたら?」という一言がきっかけで、長年の苦しさから抜け出せる方もいらっしゃいます。

ちなみに、思わず苦笑してしまうような理由でいらっしゃる方も、まれにおられます。以前、浮気が何度も発覚したという男性が、恋人から「あなた、病気なんじゃないの?精神科に行ってきたら?」と言われ(おそらく半ば呆れてのひと言だったのでしょう)、素直にそのまま来院されたことがありました。

もちろん、躁状態など病的な背景がある場合には診察の意味がありますが、いわゆる「浮気性」そのものは、精神科で治すようなものではありません。

精神科は万能の場所ではなく、扱えること・扱えないことがある、というのも正直なところです。


こうして見てみると、「誰が受診を望んでいるのか」という視点は、精神科ではとても大切です。本人の意志の強さは治療の続きやすさに直結しますし、逆に、周囲のひと押しが回復のきっかけになることもあります。

精神科の診察室には、本人と周囲の思いが交差する、さまざまな物語が持ち込まれてきます。気軽に立ち寄る場所ではないけれど、必要以上に構えなくてもよい場所——そんな「ちょうどよい距離感」で知っていただけたらと思っています。