覚悟を決める

本番で
どこまで行けるにせよ

例えそれが理想ではなかったとしても



これが私ですと


ここまでが今の私たちですと


そう言い切る

この腹で引き受ける


覚悟を決める




初演まで 

あと1週間

鳥の声が静かになった

体中に力が入ってる
顎、手、みぞおち

病院で呼ばれるのを待ってる時みたい
あるいはジェットコースターの順番待ち

喉の奥がぐっと締まってる
喉から胸にかけて体の内側で
ぎゅっと何かを握ってるみたい
みぞおちまでその感じが繋がってる
ものすごい力で握りしめてる
何かが落ちないように
出てこないように

そう気づいて
やっと少しずつ緩んでくる

来週が初演
終わってないこと
揃ってないもの
決まってないこと

たくさんありすぎて
頭が搾り取られそう
身体中が圧迫されて
何もせずに時間が過ぎてゆく

洗濯機の音
風に揺れる洗濯物


肌に触れる風

急に意識が窓の外の空まで広がる


遠くの 遠くの空


何でもない 誰でもない 自分


風が入ってきて
頭蓋骨と肋骨がひろがる



白い空

広い空


誰でもない自分


呼吸




目を閉じると
喉の奥を
何かが流れ落ちてゆく

ゆっくりと
静かに

お腹の空洞に落ちる

ドクンドクン
血液の脈と
洗濯機の音が
耳の中で重なる


口の中の水が
ゆっくり傾いて
流れ落ちてゆく


何が出来ても 
出来なくても


わたしは 

生きている  



そんなことを思い出して
驚く



例え未来で失敗しても
誰に失望されても
どんな瞬間も

わたしは、
こうして

ただ、
生きてる

それに
気づきたい






稽古が終わって
頭に血が昇ってる
後頭部の血管が脈打ってるのを感じる
おでこがぎゅっと締まってる

下腹部に力が入って
中でぐるぐる回ってる

演出として
久しぶりに稽古でイライラした
役者と若干言い争いになった

もっと…してよ
もっと…

そう言いたくなるのを何度もこらえて
飲み込んだ

「私だったら」
「私だったら」が出てくる

私だったらもっと…
もっと…

喉がぐっと締まる
言いたいことをこらえてる
自分をおさえつけてる
出てこないように
苦しい

これは言ってはいけないことだ
お前だって出来てないじゃないか
役者のこと考えてあげてないじゃないか
稽古のやり方だってふわふわしてて
そのくせいきなり高度なこと要求して
役者が可哀想じゃないか

ゆっくりでいいとか
なんでまだ出来ないのとか
言ってることが一貫してないんだよ

胸と手にたまってた熱が引いていく

胸の中がスカスカして
何だか泣きたくなってくる

頭の中が急に冷ややか
心も冷めていく

さっきまで相手を非難してたのに
今度は自分を突き放してる

私はこうやって相手と衝突を避けて 
自分を嫌いになるんだな
この無価値感には馴染みがある
この虚しさの中にいつまでも浸れることも知ってる

でも

相手を批判するでも
自分を貶めるでもなく

私が大事にしたいことはなに?
お互いにとって大事だったことはなに?

良い舞台をつくること
自分たちの納得のいくものを演じること
お客さんに喜んでもらうこと

胸の中心を透明な線がすっと通った感じがする

お互いの線が自然と交わる点が、
道の先に見えたような

そう、それだけ

胸の中にスペースができる
もっと広いところから
何をすべきか見える気がする



私はただ、演出として
自分のやり方を批判されたようで
悔しくて反応してしまっただけ

ずっと引きずってた
「自分は未熟」という劣等感を刺激されただけ

本当は彼女は何と言ってた?

「もっと練習したい」「時間が必要」
それは彼女のニーズ

それに対して、私がこれまでの自分のやり方を責めた

もっと練習したい
時間が必要

あなたのニーズを聞きました

私のニーズは

もっと練習したい
時間が必要

お互いに自分のニーズを
相手に求めてる…?

じゃあ、すでに「ある」ものは?

これまで培った
相手との豊かな時間
信頼   愛情  尊敬 

そういえば前にもぶつかったな
ちょっと笑えてくる

そして、公演を
お互いを大事に思う気持ち

胸が熱くなる
じんわりと広がるもの

すでに、「ある」ものの
豊かさを思い出してみる…