第3回大学生のための論文コンクール(前編) | プロパンガス

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Growing-up Tokyo



【1】 Prologue



 東京の街は、今日も活気に溢れている。この街に関する限り、「都市空間の活性化」など考える必要がないような気さえする。しかし、この活気を持続させていくためには、やはり街の『成長』が不可欠だ。『拡大』そして『発展』。ごちゃごちゃ言ってないで早速始めよう。



【2】 Expanding Tokyo



(1) Trading War

 政府が6兆円規模の内需拡大策を決めた。都市機能の充実にも幾分好影響を与えそうだし、波及効果によって国内景気も活気づくかもしれない。しかし、この内需拡大策が出された背景、あるいは目的を考えると、そう手ばなしに喜んでばかりもいられない。

 アメリカ議会は、とにかくうるさい。「日本は貿易黒字削減のため、内需拡大を即実施せよ」の一点張りだ。アホか。甘えてもらっては困る。

 日本は今、空前のカネ余りだ。(このことは、日本が今、史上最悪のインフレーションの真只中にいることに他ならない。たまたま物価指数に反映しない「土地」「株」の方向にカネが集中しているために、インフレの深刻度が実感として伝わらないだけである。)もし政府の内需拡大策が成功して、生産の矛先が国内市場に向き、設備投資が拡大したらどうなるか。おそらくそのためのカネは、輸出産業の圧縮によってではなく、貯蓄を減らすことによって産み出されることになるだろう。日本にとっての貯蓄とはすなわち、アメリカ国債のことであり、その入札を手控えることは、アメリカ国民の生活に即刻悪影響を与える。もちろん、輸出は減らない。

 内需拡大策など、まったくナンセンスである。

 しかし、そんなことばかり言っていても始まらない。なんとか日本の対アメリカ貿易黒字を減らさないことには、アメリカ議会のヒステリーはますますエスカレートするばかりだ。なぜこれほどまでに貿易不均衡が生じてしまったのか。その理由は何なのか。もしもその原因を取り除くことができるなら、当然そのための努力をしなければならない。私が考えるに、原因は大きくみて3つある。

 一つめは、大前研一氏をはじめとする諸氏の言う「統計上の問題」である。貿易統計には、対アメリカOEM輸出、部品輸出、アメリカで生産されていない製品の輸出、あるいは在日アメリカ企業の売上が考慮されていない。何とまあ、日本の対アメリカ輸出の2030%にも当たる数字が、統計にあらわれてこないのである。こんなデタラメな指標をもとに赤字が減ったの黒字が増えたの言っても仕方がない。くだらん。

 二つめは、『Jカーブ効果』という形で誤解されているもの。「円高が進行すると、最初のうちは為替レートの関係でドル建て対アメリカ輸出額が増加するが、やがて競争力低下に伴い数量ベースでの輸出量が減少するため、ドル建て輸出額も下降傾向に入る」という神話。1ドル=240円であった80年代前半と、135円前後の今を比べてみて、どちらが黒字が多いか。小学生でもわかる。86年度の貿易黒字は、ドル建てで84年度の2倍以上になっており、なんと円建てでも約1.6倍になっている。日本企業の技術革新、経営合理化はどうにか円高デメリットを克服し、それどころか円建て黒字まで増加させている。「円高は、統計上貿易黒字を拡大させる効果を持つが、数量ベース貿易不均衡を是正する要因にはなり得ない。」と言える。

 三つめは、本来の意味での貿易不均衡。貿易が、日本とアメリカの経済力・産業力を反映していないということ。日本に対して、アメリカ議会あたりは、「輸出を減らせ」と言わんばかりだが、まったくその必要はない。むしろ日本は、いくつかの業種で輸出を自主規制しているくらいで、経済力・産業力に見合うほどの輸出をしていない。ほとんど全ての業種で輸出余力がある。しかし、それ以上の輸出余力がアメリカにはある。産業界のハイテク化の遅れから、アメリカはエレクトロニクス等では日本と競合できなくなっているが、アメリカの主力製品であるところの農産物に関して言えば、逆に日本の方が太刀打ちできない。オレンジ、牛肉、米、それに木材等。ところがいざアメリカがそれらの産品を輸出しようとすると、日本はちっとも買ってくれない。日本の市場開放はかなり進んだが「日本の製品と比較して、競争力のない商品の市場は開放するが、競争力の強い商品は締め出す」というのではアメリカやヨーロッパ諸国がブーたれるのも仕方ない。政府が農産物の輸入に消極的なのは、「国内産業の保護のため」だそうだ。もちろん、国内産業の保護育成を目的とした保護貿易は頭から否定されるものではない。しかし果たして、日本の農業が、「保護」によって「育成」されるのか。過保護に肩までどっぷりつかって堕落していくだけではないのか。

 日本とアメリカを比較してみて、経済力からして、日本の方に貿易黒字が生じるのは仕方のないことだ。アメリカ国民にとって、日本の「廉価で、高品質で、アフターケアのしっかりした」製品を購入することは、即、利益である。バシバシ、輸出すればよい。しかしその際大切なのは、日本国民の利益を保障するために、アメリカからの、特に農産物の輸入をもっともっと増やすことである。デイヴィッド=リカードォの「経済学および課税の原理、『比較生産費説』の原点に帰って落ち着いて考えてみたい。



(2) Agricultural Problems

 日本の産業の特性を活かし、日本の利益を確保していくためには、農産物の輸入が不可欠である。しかし、米、オレンジ、牛肉を輸入することに問題はないのか。あるいは問題があるとすれば、それは解決しうるのか。ここでは、米を例にとって考えてみたい。

 カリフォルニア米の価格は、一般に日本製に比べて十分の一から五分の一と言われており、どう高く見積もっても二分の一以内だと言う。これほど廉価な商品をシャット・アウトしてしまうのは、何とももったいない話である。この安い米を輸入できない最大の原因は自民党にあるが、それ抜きにしても、米の輸入に対する不安はいくつかある。

 まず、「主食を輸入にたよってしまって、有事の際にはどうするのか」という問題。非常に多くの識者がこの問いに答えているのに、いまだに解らない人がいる。有事の際、つまりアメリカから米の輸入ができなくなった場合には、欠乏するのは米だけではない。当然、石油も鉄鉱石も、羊毛もすべてストップする。石油がなくなったら、どうやって米作をするのだ。トラクターも田植え機もコンバインも動かない。化学肥料もない。たとえ近代以前の農法で米を供給できたとしても、さて、どうやって全国に運ぶか。トラックは使えないから、蒸気機関車を利用するしかない。どうにか家庭に届いても、電気炊飯器がダメなので、まきで炊く。畜産の飼料は手に入らないし、漁船も遠洋には出て行けないのでタンパク源がない。こんなクレイジーな状況で米だけにしがみついていてもどうしようもない。アメリカからの輸入米が止まってしまうような事態になれば、米の有無にかかわらずみんなで泥団子でも喰って生きのびるしかない。

 次に、「農地による国土保全能力」に関する問題。例えば、『首都圏農家がマケてもらっている固定資産税は年額たった80億円。FSX1機分じゃないか。これで国土保全ができるなら安いもの』という意見がある。とんでもないことだ。首都圏農家を保護するためにサラリーマンのはらっている犠牲はこんなもんじゃない。地価高騰によって、サラリーマンは何千万円もの家を通勤2時間圏に求めるのがやっとだ。もちろん、地価狂騰の原因の全てが農地にあるわけではないが、少なくとも80億円やそこいらの金額で評価できるものじゃないことは確かだ。

全中の試算によると、農地による国土保全効果は年間約12兆円だという。全中は、墓穴を掘った。日本の耕地のうち約50%が田なのでもし米を全面的にアメリカからの輸入に頼るとすれば、国土保全費用が約6兆円必要になる。6兆円なら、一世帯あたり、たったの15万円だ。年間15万円の増税で、米や牛肉が安くなり、あわよくば地価が下がる。安いもんだ。国土保全の方は、たった15万円の増税でクリアーできる。

その他、「田園の緑が目を楽しませる」というメリットを主張する人もいるが、それは幻想で、満員電車の窓から見える農地にサラリーマンはイライラするだけだ。

それから、農地激減による労働力余剰の問題。たとえ米が安くなっても街に失業者があふれていたのでは困る。昨今は農家の兼業化が進んでいるので、米輸入解禁による失業率の増加は1~2ポイント程度であって、徐々に他の産業に吸収されるであろうが、失業する当人の立場から考えるとそんなとぼけたことも言ってられない。やはり、何らかの策を講じる必要がある。たとえば、アメリカからの輸入米を一度すべて政府が買い上げるという方法はどうだろうか。そしてその輸入米生産者米価に150%程度上乗せした輸入米消費者米価で市場に放出する。ここに“食管黒字”が生じるわけだ。輸入米生産者米価と輸入米消費者米価の格差は年々10ポイントぐらいずつ下げてゆき、15年間でゼロにする。換言すれば、日本の米作農家は、15年間のうちに少しずつ経営合理化するか、“とらばーゆ”すればよいということである。15年あれば何とかなるだろう。小学校1年生の子供でさえ大学を卒業して立派に就職できるだけの時間だ。

最後に、余り出た農地をどうするかという問題もあるだろうが、それについては次章以降で触れる。


(3) Nagoya, Niigata, Sendai・・・

カリフォルニアからの米が日本市場に自由に入ってくるようになれば、日本の田はほとんど消え去り、グルメたちのためにコシヒカリやササニシキなどのブランド米が生産されるのみになる。では、利用価値のなくなってしまった水田はどうするのか。そのまんま荒地にしてしまうのはもったいない。なんとか有効な活用方法はないものか。

水田の存在しているのは、低地や平地が多い。しかも水利のいい地域がほとんどだ。ということは、水田跡地は、住宅利用や工業用地、商業用地に転用しやすい。ここでは、米作の盛んな濃尾平野、新潟平野、仙台平野について考えてみる。

名古屋、新潟、仙台の3都市に共通して言えることは、それぞれ、東海、北陸、東北地方の中心都市であるというだけでなく、新幹線を利用すれば東京まで2時間の距離に位置していることだ。2時間と言えば、今や通勤圏である。しかも新幹線にゆったりと座って通勤すればさほどハードでもないだろう。E電並の運転間隔、16両編成で営業すれば、1時間で12万人を運ぶことができる。3都市とも当然ながら東京に比べて地価がかなり安い。きっと、快適な住宅都市に生まれ変わってくれることだろう。水田跡地を利用して大規模な宅地造成をする。NEW名古屋は人口4百万、NEW仙台は2百万、NEW新潟は150万の巨大住宅都市となる。4百万人強が大東京圏の新住宅都市へ出ていくわけだ。これだけの人間が集まれば、それぞれの住宅都市は地方の中核都市としての機能を強めるだろう。流通(=消費)の中心、文化の中心としての性格を強め、しかも世界的企業戦士たちの居となるわけだから、そのニーズに応えて情報のキーステーション的役割も果たすようになるにちがいない。東京と同じくらいにヴィヴィッドな都市に成長したなら、今流行の遷都を考えてみるのも悪くない。

蛇足になるかも知れないが、リニアモーターカーの導入も検討に値するだろう。新幹線に比べて3分の2から半分の時間で通勤できる。高温超伝導が実現すればコストも安く上がり、経済的。内需拡大の目玉として建設してみるのも悪くない。

あるいは、たとえ交通手段の問題が解決できなかったとしても、将来的に在宅勤務が普及するであろうことを考えれば、この新住宅都市案は有効なはずである。

(続く) http://ameblo.jp/propanegas/entry-10390109780.html