水道橋博士が聞き手となったインタビュー作品、P277 を読了。
宝島社からのオファー企画に博士が答えた形で執筆、この時点からなんとなく違和感を感じました。ちなみにこれが企画書にあった文言とのこと。
長州力のレスラー人生における『10大事件』について、本人にインタビューし、これまで謎とされてきた真実を語ってもらう長州初のインタビュー集です。プロレス本では語りつくされた感のある定番事件が多いですが、本人が一つひとつの事件に関して改めて語ったことはありません。定番事件であるからこそプロレス黄金時代の歴史をたどりながら、誰も知らない長州力の新事実が明らかになるプロレスファン垂涎の一冊となります。
宝島はこれまでプロレス読本シリーズでたくさんの本を出版しているので、この内容であればお手の物と思っていました。ただ、年初に出版された『告白 平成プロレス10大事件 最後の真実』でも長州はインタビューを受けていたし、『インタビュー嫌いの長州から新たな情報が引き出せるのか?』という意味ではかなり難問。博士が持っている、『藝人春秋』のように人物像を浮き彫りにする能力とプロレス知識に期待してのこととは思いますが、正直無茶振り企画のようで、ちょっとかわいそうに思いました。
案の定、最初から企画変更、冒頭から博士の苦労が垣間見えました。本来であれば、3回のインタビューに基づいて進められるはずが、初回のインタビューでこんなことを言われたらしい。
そんなことを聞かれても、「お前に何が分かる!」ってことです。いくら質問しても僕は話しませんよ。もうそんな本は今までだって何冊もあるから、もう、それでいいじゃないですか。ただ、こうして博士さんといろんな、お喋りすることは、僕は何にも問題ないですけどね・・・
ということで、水道橋博士が一観客となって何を聞きたいのか、年表を元に長州から聞き出した証言録に企画変更となりました。断片的とはいえ、長州の口から出た言葉がリアルに載っているので、それはそれで価値のあるものですが、長州の口も固く、聞き出したかったことが全て出せているかというと、そうはなっていない。改めて、昭和のレスラー達の口は固いと思いました。
そのやり取りも含めて証言録として残されているので、長州の人物像は浮彫にはなっています。それでも、特別収録された『プロレス芸人論』はユニークな内容で、読み応えを感じました。プロレス界と芸能界、レスラーと芸人の類似的なところを突っ込んで聞いていて、テレビ好きを公言する長州も饒舌に見えました。直球勝負だと厳しければ、違う分野とかけあわせて、違う興味から攻めたほうが、より深い情報が引き出せそうに思います。
今回の本で特に印象に残ったのは、「朝まで生テレビ!」に出演したウーマンラッシュアワーの村本のくだり。
長州:僕はあの番組が好きで(見るのを)欠かしたことないんだけど、彼は潰されたっていうか。あれはいきなり出たんじゃなく、前もっての時間もあったはずなんですよね。事前にテーマが出てるし。彼は『戦争をするべきじゃない!』って一生懸命に訴えようとしたんだけど、ほかのパネラーに舐められてどんどん釘を刺されてね。『なんでお前、芸人がそんなところに出ていったんだよ』って身内から批判した芸人さんもいるんじゃないかな。芸人と呼ばれる職業のなかで考えはみんな違うから、あそこに出てしまうと異端児っぽく見えちゃうんだろうけど。
僕も過去に一回、朝生に出たことがあって(出演予定はなかったがスタジオに突然現れ、観客から議論に飛び入り参加)。在日問題のテーマで出たことがあるんですよ。それでどうのこうの喋って拍手がバーッと起きたら、李なんとかっていう人が『そんな拍手はやめなさい!テーマにそぐわない!』って。演劇界にすごい方がいたじゃないですか、その人の奥さんだったっていう。
博士:唐十郎の奥さんの李麗仙さんですね。
長州:そうあの人が怒っちゃって。彼(村本)もそんな状態だったんですよね。
長州が朝生に出た話は以前聞いたことがありますが、本人の口から出たのは今回初めてのことと思います。ここでは在日うんぬんが論点ではなく、芸人が自分の領域を一歩踏み出して、堅い番組で持論を一生懸命述べていることに対し、異端児扱いされてしまう現状を憂いてのこと。その点を朝生で受けた自らの実体験と照らして説明しているところが面白い。
結果はどうあれ、踏み出したことに対しては評価されるべきで、それを叩いて潰してしまおうという世論に異を唱える点は同感します。勉強不足だったり、説明がうまくなかったりは言われても仕方ない。ただ、単に批判するだけに終わらず、意見を提起したことを称えた上で、『ではどうすればいいのか?』 『何が足りなかったのか?』という建設的な議論に繋げていく包容力があってほしい。その点は事件を次の興行のネタに繋げていくプロレス界のずぶとさ、したたかさから学ぶべき点だと思いました。