エソテリックから今月発売されたSACD、アクサン原盤のモーツァルトのフルート四重奏曲集、もう一枚は、DECCA(旧Philips)原盤で、ヘンリク・シェリングがハイティンク/コンセルトヘボウ管弦楽団と共演した、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲です。
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ルードウィヒ・ファン・ベートーヴェン/
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61(カデンツァ:J.ヨアヒム)
ロマンス第1番ト長調 op.40
ロマンス第2番ヘ長調 op.50
ヴァイオリン:ヘンリク・シェリング
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
指揮  :ベルナルト・ハイティンク
録音  :1973年4月26~27日(協奏曲)
        1970年9月14~15日(ロマンス)、アムステルダム・コンセルトヘボウ大ホール

ヘンリク・シェリングはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を3回録音しています。
1回目:ティボー指揮パリ音楽院管弦楽団(1952年、仏コロムビア)
2回目:シュミット=イッセルシュテット指揮ロンドン交響楽団(1965年、マーキュリー)
3回目:ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1973年、フィリップス)

1回目の録音は流石に古く、記録としての価値はあってもこの曲の演奏として今お勧めできるものではないでしょう。2回目の録音は、一部に根強いファンがいます。マーキュリーの名録音とS=イッセルシュテットの硬質な音楽づくりとシェリングのソロが上手くかみ合った名演ですが、解釈は好みが分かれるかもしれません。
この3回目では、共演が若き日のハイティンク指揮コンセルトヘボウ管弦楽団と言う事も有り、2回目に比べてややソフトな音づくりになっています。これを「軟弱」と解釈するか、「バランスの良い」と解釈するかは聴く方の好みによるでしょう。

カデンツァは第1、第3楽章ともヨーゼフ・ヨアヒムのものを弾いています。
2回目では第3楽章にカール・フレッシュ作のカデンツァでしたが、3回目では変更しています。
シェリングのソロは、盤石の構えで極めて安定しています。派手さには欠けますが技術面では文句なし、曲作りのバランスも安心して聴ける演奏です。

私はPhilipsレーベルのCDを持っていないので、今回のSACDとの比較はできません。
JVCの杉家氏によるマスタリングは、会場のコンセルトヘボウのまろやかな音を再現しようとした感じに聞こえます。1970年代はアナログ録音は完成期に入っており、オランダPhilipsもコンセルトヘボウの長い残響で音が混濁しないよう自然な雰囲気を活かした録音です。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は名演が数多いので、シェリングの演奏をお好きかどうかで評価が分かれますが、70年代のオランダPhilipsの録音を上手く再現したという意味では聴きごたえのあるディスクになています。


エソテリックが継続してリリースするSACD、今月も2点発売されました。
そのうち1点は、初めてACCENT(アクサン)原盤によるものです。
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モーツァルト/フルート四重奏曲
第1番ニ長調 KV.285
第2番ト長調 KV.285a
第3番ハ長調 KV.285b
第4番イ長調 KV.298
バルトルド・クイケン(フラウト・トラヴェルソ/アウグスト・グレンサー~ルドルフ・トゥッツによるコピー)
シギスヴァルト・クイケン(ヴァイオリン/ジョヴァンニ・グランシーノ[ミラノ、1700年])
ルシー・ファン・デール(ヴィオラ/サムエル・トンプソン[ロンドン、1771年])
ヴィーラント・クイケン(チェロ/アンドレア・アマティ[1570年])
録音:1982年3月、ボーフェ教会
プロデューサ:アデルハイド&アンドレアス・グラット

1983年にLPが発売されました。国内盤は日本コロムビアだったと思います。
現在では古楽界の巨匠として有名なクイケン兄弟の若き日の名演です。
当時、私は国内盤が高くて購入を見送り、数年後に輸入盤を購入しました。

バルトルド・クイケンのフルートは他にSEONレーベルなどでも発売されていましたが、現代楽器と異なる鳥がさえずるような音色に新鮮な驚きを感じたものです。

久しぶりにこのモーツァルトを聴きましたが、ピントのはっきりした軽い響きが再現されています。曲は今更書くまでもない名曲で、特に第1番ニ長調は良く知られていると思います。
構成が中途半端な第2番や他の曲からの編曲が入っている第3番も、第1番に続けて聴くと、以外に自然に楽しむ事ができました。
作曲時期が離れている第4番は少し曲調が異なりますが、4人の作り出す軽やかな調べには時を忘れさせるような魅力があります。

SACDの音質は、最近の一部の製品に聴かれるような意図的にピラミッド・バランスを再現したような違和感もなく、4人の名手の演奏が2つのスピーカの間にフワリと浮き上がるような自然な空間を作っています。
エソテリックが制作するSACDは、今までユニヴァーサル・クラシックや旧EMI(ワーナー)、ソニー等のメジャー・レーベルの音源を使用していました。今回のアクサン原盤による新譜は、ワンポイント録音の魅力を広く伝える名演なので、多くの人に楽しんでほしいものです。
ステレオサウンドから松田聖子の初期アルバム6作がSACD(ハイブリッド盤)で発売になります。


タイトル 型番 リリース予定日 初回リリース年
SQUALL SSMS001 9月下旬発売 1980年
風立ちぬ SSMS002 9月下旬発売 1981年
PINEAPPLE SSMS003 10月下旬発売 1982年
CANDY SSMS004 10月下旬発売 1982年
ユートピア SSMS005 11月下旬発売 1983年
SUPREME SSMS006 11月下旬発売 1986年
全てハイブリッドSACD(2ch. ステレオ)
価格:\3,780(税込)

SACD化のマスタリングエンジニアは鈴木浩二氏、またステレオサウンド誌などで様々なLPやCDの名録音について執筆している嶋護氏がスーパーバイザーとして参加されます。
全て1980年代の作品ですが、「SUPREME」以外はアナログ・マスターテープからのDSD化です。「SUPREME」のみマスターがPCMディジタルのため、PCMデータからDSD化されるとの事です。

SQUALL』(スコール)は1980年8月1日に発売された初のオリジナルアルバム。原田真二が全作曲をしたコンセプト・アルバムです。
風立ちぬ』(かぜたちぬ)は、1981年(昭和56年)10月21日にリリースされた4枚目のアルバム。全曲の作詞を松本隆、A面の作曲・編曲を大瀧詠一、B面の「白いパラソル」以外の編曲を鈴木茂が担当しています。プロデュースはCBSソニーの若松宗雄、サウンド・プロデュースを大瀧&鈴木が担当したので、A面は大瀧のナイアガラサウンドの性格が強く出ています。
Pineapple』(パイナップル)は、1982年5月21日発売の5枚目のアルバムです。
Candy』(キャンディ)は、1982年11月10日発売の6枚目のオリジナルアルバムです。
ユートピア』は、1983年6月1日発売7枚目のオリジナルアルバムです。「小さなラブソング」以外の全曲で松本隆が作詞を担当、作曲陣には財津和夫、来生たかお、細野晴臣など豪華な陣容です。


オリジナルのソニー・ミュージックがSACDに消極的な今、SONY原盤が他社でSACD化されるのは複雑な思いです。


オーディオのかつての名門企業、山水電気が破産申請との報道がでました。
山水電気が破産

山水電気は、去る2012年に民事再生法適用を申請し、破たん状態にありました。
今回の破産申請は、オーナー企業が倒産して山水電気の再建策がとん挫した事が主原因のようです。山水電気は、かつてはトリオ(現JVCケンウッド)、パイオニアと並んで「オーディオ御三家」と呼ばれていました。
他社との違いは、サンスイがオーディオ・アンプに特化して他に主力製品を持たなかった事です。
個人的には、1970年代にもう一つ時代を先取りした製品(技術)がありました。
それは、4チャンネル・サラウンドです。

サンスイQS-1

1970年、山水電気はQS方式による4チャンネル・サラウンド音声フォーマットを発表しました。その製品として4チャンネル・サラウンド(クォドラフォニック)・シンセサイザー「QS-1」を発売しました。これは2チャンネル・ステレオに含まれる位相差成分から後方2チャンネルの音声を生成してサラウンド音声を生成するものでした。
その後、その方式によるマトリクス4チャンネル・エンコーダーとデコーダーを発売、4チャンネル音声を2チャンネル音声の中に埋め込んで、再生の際に再度分離する方式を市場に提供しました。
この方式はRM(レギュラー・マトリクス)4チャンネル方式として定着し、この方式によるサラウンド音声を収録したLPも発売されました。
山水に続いてSONYがSQ方式によるマトリクス4チャンネル・サラウンドを提唱し、CBSソニーから同方式によるLPが発売されました。その後、EMIもSQ方式を採用したので両レーベルからSQ方式でエンコードされたマトリクス4チャンネル方式のLPが発売されました。

サンスイの提唱したQS(RM)方式は、同社が独占しなかったため、SONYを含む様々な会社がRMデコーダーやRM方式でエンコードされたLPを発売しましたが、市場に定着する事無く、1970年代末に(山水は1980年代前半)市場から徐々に消えていきました。
その後、オーディオの世界でサラウンドは長年に渡り鬼子扱いを受けました。21世紀に入り、DVD AUDIOやSACDが発売されたものの、現在に至るまでサラウンド音声を収録したディスクはごく一部に留まり、映画などが新譜の殆どがサラウンド音声付きなのと比べると悲惨な状況です。

さて、サンスイに話題を戻します。
同社が滅びの路を辿ったのはアンプの成功に胡座をかき、時代に合わせた製品群を充実させなかった事が大きな要因でしょう。
勿論、同社に出資した会社の経営破綻など不幸な事態もありましたが、他社が買収したいと思う魅力が残っていなかったのでしょう。
残ったパイオニアもプラズマテレビの撤退以降、オーディオ・ヴィジュアル分野では不振が続いています。日本のオーディオ・ヴィジュアルのメーカーが次々と姿を消すのは寂しいものです。
今年の1月に亡くなった名指揮者、クラウディオ・アバドの生前最後の演奏会ライブが発売されました。
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ブルックナー/交響曲第9番ニ短調
管弦楽:ルツェルン祝祭管弦楽団
指揮  :クラウディオ・アバド
録音 :2013年8月26日、ルツェルンKKL(原盤:Accentus Music)

アバドは1996年にウィーン・フィルを指揮して交響曲第9番ニ短調を録音しています。
両方の演奏時間を比較してみると、昨年の演奏では第1楽章、第2楽章がゆっくりになっています。
2013年1996年
第1楽章26:4725:05
第2楽章11:0310:06
第3楽章25:1725:13

速度だけでなく、ルツェルンでの演奏は全体に角が取れた表現です。
モーツァルト管弦楽団とのシューマンほど強烈な印象はありませんが、過去の「いわゆる」ドイツ・オーストリア風のアコーギクの慣習にとらわれず、無駄な力を抜いて楽譜に語らせる傾向は同じ方針でしょう。無駄な力は無いものの、楽曲自体の力には手を抜いていません。
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アバドはブルックナーの交響曲について、特定の作品を繰り返し演奏しています。
最も多いのが第1番で3回録音しています。
それ以外は、第4番・第5番・第7番・第9番で、ウィーン・フィルとはこの5曲を録音、晩年のルツェルン音楽祭では1,5,7,9番を録音して第9番が最後の録音になりました。
第8番を全く録音しなかったのは残念ですが、残された作品は夫々印象的なものです。

ウィーン・フィルとの演奏では、アバドの原典に対するストイックなアプローチで時折オーケストラとももめたようです。
それに比べ、ルツェルンでの演奏はアバドの指揮を慕う奏者達による演奏で、オールスター軍団時折聞かれるスタンドプレーもなく、真摯にブルックナーのスコアに向き合っているようです。

最後の第9番は、ゆったりした速度でアバドの思いをじっくり描き出し、ブルックナーとアバド自身の「白鳥の歌」になってしまいました。
いわゆる「ブルックナー・サウンド」とは一味違いますが、最後まで作曲者のスコアに忠実に芸術を再創造しようとしたアバドの姿勢を素直に行けとめて聴くと、この交響曲第9番の天国的な響きに心を洗われるようです。