歴史から学ぼう・無関心と言う罪③
第3回目の今回は、悲恋の果ての心中と言われたマイヤーリンクの心中事件の真相に迫っていきましょう。
成年皇太子となったルドルフは、皇妃の不在を補う為、父と共に公務を行うのですが、シシィの民主主義的な自由思想の影響を受けて育った為、ハプスブルク家による他民族への支配に疑問を感じ、いずれ帝国の崩壊は間逃れないと危機を感じ取っていました。
幼い頃から尊敬していた父が、頑なに古い因習に固執する姿にルドルフは幻滅し、次第に嫌悪感を抱くに様になって行ったのです。
一方、父は、若者の感性で未来を見つめ、独自の路線で行動をする息子に落胆し、ルドルフを執政に参加させようとはしなかったのです。
成年になっても父の補佐役しか与えらないルドルフ。
ハプスブルクと言う巨大な壁を前に、理想と現実の狭間になす術もなく、帝国に対して反抗的な態度でいる事しか出来ずにいました。
匿名で皇室や父の執政を批判し、趣味の乗馬に膨大な浪費をする母を批判するルドルフ。
一方で、ウィーン郊外にある居酒屋「ホイリゲ」で市民と混ざって騒ぎ、女性の人気も高かったルドルフは、数々の女性と浮名を流す事でやり場のない思いと孤独を紛らわせる心の弱さがあったものの、民衆は、そんなルドルフを愛したのでした。
頑なに伝統を守ろうとする皇帝はハプスブルクの流儀に外れるルドルフを叱り、抑え込む事しかしなかったし、シシィは相変わらず無関心。
ルドルフの荒れた生活は、特殊な環境とは言え、甘やかされて育った王子が両親から顧みられない為に、駄々をこねている様な風に映っていたのでしょう。
ルドルフの孤独は結婚によっても救われる事はありませんでした。
ベルギー王女のシュテファニーはおよそルドルフが満足するタイプの女性ではありませんでした。
母シシィは、この見た目のパッとしない王女が大嫌いでした。
美しくもなく、頭の回転が早いとも言えない、田舎臭い王女が息子の妃になるなど我慢出来なかったのです。
ウィットに富み、成熟した女性ばかりを見て来たルドフルが、この様な未成熟な王女との結婚を承諾した事は誰の目にも以外でした。
シュテファニーは気位だけは高く、ハプスブルクの皇妃と言う役割に夢を重ねる様な女性でしたから、ルドルフやシシィと合う筈がありません。
シュテファニーはルドルフの仲間を嫌い、ルドルフが興味を示すものには全く関心を持とうともしなかったのです。
ルドルフは、一度だけシュテファニーを「ホイリゲ」に連れて行った事がありましたが、シュテファニーは野卑な人達がコップに入ったワインを飲み、歌い騒ぐ雰囲気が我慢出来ず、それ以来二度と行く事はありませんでした。
その様な状態ですから、結婚当初はシュテファニーを可愛がったものの、暫くして第一子となる大公女が生まれると後継者でない事にガッカリし、次第に、明け方まで家に帰らず仲間たちの所へ戻って行く様になったのです。
父親を頂点とする宮廷との対立、家庭の不和。
加えて、移された性病が悪化しモルヒネを常用する様になると、ルドルフは、シシィが死を願った様に、ルドルフもまた死を身近なものと考える様になったのです。
ルドルフが心中相手に選んだのが、愛人のミッツィー・ガスパール。
踊り子と言われていましたが、高級娼婦といったところ。
ルドルフはミッツィーと一緒にいると面倒な事は忘れられたし、心を許す事が出来た唯一の女性でした。
しかし、一緒に死んでくれるかと誘うと、冗談かと思い一笑されてしまう。
いかにも、ミッツィーらしい。
バツが悪くなったルドルフは、思わず冗談だと片付づけてしまう。
そんなやり取りを2,3度繰返し、ミッツィーを道連れにする事を諦めたルドルフでしたが、ミッツィーは余りにも心中を仄めかすので流石に心配になり、警察に事情を話したと言われています。
一度は死神から見放されたルドルフでしたが、相変わらず父との政策上の関係は上手く行かず、帝王学を学ばせる事もなければ、重要な会議にも加えて貰えない。
このままでは当分父親は皇帝の座を譲る事はないだろと、将来に絶望を感じていた矢先、父親と口論となり激しく衝突したのでした。
「もうお前とは話す事など何もない。ウンザリだ。お前には絶対に後は継がせない、絶対にだ‼︎」
もう自分の将来は閉ざされた。
父の激しい喧幕は、ルドルフにとって死の宣告にも同じでした。
そして、ルドルフはこの時も母を求めたのでした。
「母上、貴女ならわかってくれる筈だ。」
かつて母が自分を救ってくれた様に、今度も母なら救ってくれるだろう。
最後の望みをかける様にシシィに救いを求めたルドルフ。
部屋を出たルドルフは、偶然、宮廷に戻っていたシシィを見つけると、母の暖かい言葉を期待してシシィの元に向かったものね、シシィは青白い顔をして思いつめた顔のルドルフを一瞥すると
「あら貴方、大丈夫? 顔色が悪いわよ」
と素っ気ない言葉を残して去ってしまったのです。
家族とは名ばかりで互いに興味も持たず、宮廷という隔離された一種独特な世界で生きるには脆かったルドフル。
絶望の淵に立たされ、死を決意したものの、気弱なルドルフはここに来ても1人で死ぬ勇気はなかったのです。
そこに目を付けたのが、自分を慕っている男爵令嬢のマリー・ヴェッツェラ。
社交界にデビューしたばかりのお転婆娘は、若さゆえの一途な恋に、恋人の為なら一緒に死んでくれると言う。
これで決まった!
二人は別々の馬車で、極秘にマリヤー・リンクの猟館向かったと言う訳です。
・・・・to be continued