ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
フランツ・ヨーゼフ逝く②
カール・フランツ・ヨーゼフ。
この人程、皇帝の椅子に遠くにいた人物はいなかっただろう。
皇帝フランツ・ヨーゼフの息子ルドルフが情死した為、フランツ・ヨーゼフは甥のフランツ・フェルディナントを皇位継承者に指名した。
本来ならフェルディナントの子供達が次の皇位継承者となるところだが、皇帝とフェルディナントは仲が悪く、フェルディナントが身分の低い女官出身の女性と貴賤結婚した為、フェルディナント夫妻の間に授かった子供達には皇位継承権は与えられなかった。
その代わり、フェルディナントの叔父「麗しのオットー」の息子であるカールが第2位継承者となったのだった。
既に80歳を過ぎた皇帝フランツ・ヨーゼフは、時々カールを皇帝の名代として外国へ派遣させた。
本来なら皇帝の名代は皇太子のフェルディナントが行うべきところだが、皇帝が甥のフェルディナントを嫌っていた事もさることながら、フェルディナントが貴賤結婚をした為、外交儀礼上支障を来す事があったからだ。
例えば、イギリスのジョージ5世の戴冠式列席・・・・この様な王室同士の外交儀礼などがそれにあたる。
しかし、いくら皇帝の名代を務めたとは言え、これまではカールが皇位継承をするのはずっと先の事と誰もが考えていたし、カール夫妻も自分達が皇太子・皇太子妃になるのは、まだ20~30年先の話だと思っていたのだった。
いや、もしかしたら、フランツ・ヨーゼフ亡き後は、フェルディナントの子供が帝位を継ぐ事だって考えられる。
カールは軍人として常に戦場の前線に立って指揮をしてきた。
この時も、2ヶ月近く前に、ハンガリー第39歩兵部隊の陸軍中佐に昇進したばかりだった。
これからも順調に昇進し、家族と共に幾つかの駐屯地を廻るだろう。そして、毎年の様に増えて行く子供達との愛情に満ちた生活を送る・・・これが、つい数時間前までのカールの生活の全てだった。
だが、今やこの当たり前の様の日常は一変してしまった。
つづく