ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
フランツ・ヨーゼフ逝く①
1914年6月28日、サラエボの空に3発の銃声が轟いた。
その日、オーストリアでは、ライフェナウにあるお気に入りの別荘で、カールとチタは食事を楽しんでいた。
この別荘は、カールの叔父にあたるフランツ・フェルディナントの父カール・ルードヴィッヒが建てた別荘で、叔父のフランツ・フェルディナントは甥のカールにこの別荘を自由に使わせていた。
3棟の館に果樹園、花畑、テニスコートに池のあるこの別荘を、カールはハプスブルク基金によって、やっと手に入れたのだった。
そう、この別荘の元の持ち主が、セルビアのテロ組織「黒手組」の手によって暗殺された日、奇しくも甥っ子はこの別荘に居たのだ。
「何だか様子が変だね、幾ら何でも待たせすぎやしないか?」
「ええ…。いつもなら、もうとっくにメインディッシュが運ばれてくるのに。キッチンで何かあったのかしら・・・・」大公妃チタも不審に思う。
「ちょっと様子を聞いてみようか・・・」とカールとチタが話しているところへ、侍従が電報を持ってやって来た。
「えっ・・・・フェルディナント叔父サンが・・・」
「カール、どうかなさったの?」
「大変だ、チタ。叔父さんが・・・フェルディナント叔父さんがサラエボで暗殺された・・・」
「何ですって!!」
この時、カールとチタの脳裏を真っ先に横切ったのは、突然両親を奪われた子供達の事だった。
「まぁ・・・・あの子達はどうなるのでしょう。大叔父様(フランツ・ヨーゼフ)はあの子達をハプスブルクの一員とお認めになっていないし…。あんなに幼くして両親を失うなんて可哀想に・・・・」
「ああ・・・・」カールは短く頷く。
しかし、この時カールは自分達にとってもただならない運命が襲い掛かってくる事を理解する。
それは・・・自分が次期皇位継承者となる事を意味していた。
つづく