ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
第一次世界大戦へ① -実弟メキシコ皇帝となる-
フランツ・ヨーゼフは苦渋の決断を迫られていた。
「後継者がいない…」
愛息ルドルフを失ったフランツ・ヨーゼフが適任とする後継者はいなかった。
何故なら、ハプスブルク家は相次いで後継者を亡くしていたからだ。
先ず最初に失ったのは皇帝の実弟マクシミリアンだった。
フランツ・ヨーゼフには2人の弟がいた。
皇帝の任務には不適切と思われた末の弟はさておき、直ぐ下の弟マクシミリアンは明朗闊達で誰からも愛されていた。
鈍重な兄フランツ・ヨーゼフよりマクシミリアンの人気は高かった。
「フランツィは真面目過ぎて面白くないよのねぇ」
母ゾフィーは兄より弟マクシミリアンを可愛がったし、シシィも傍にいて楽しいマクシミリアンと仲が良かった。
「何だい、何だい、母上もシシィも。
シシィなんて、すっごい楽しそうな顔してさ。僕になんて一度もそんな顔しないのに。なんでアイツばかり人気があるんだよぉ~。グレてやる…」フランツ・ヨーゼフは面白くない。
成長するにつれて兄と弟の政治理念は全くかみ合わず、二人は別の方向に離れて行く。
マクシミリアンもまた、シシィ同様、リベラルな考え方を持っていたのだった。
当然、兄と弟は合わない。
フランツ・ヨーゼフは弟マクシミリアンを遠ざけた。
フランツ・ヨーゼフはこの憎らしい弟を後継者に指名する気はない。
この当時はまだルドルフが存命だった為、フランツ・ヨーゼフは、帝位は息子に譲ると弟に宣言していたのだった。
海を愛した弟はイタリアのトリエステにある館に居を構え、ヨットで航海をしたり、気楽な生活を楽しんだ。
ウィーンの宮廷を嫌ったシシィも時折、トリエステの館にいるマクシミリアンを訪ねていた。
しかし
「ここに居ても皇帝になれないのかぁ…」
特に玉座に拘るわけではないが、それでも自分の思う政治理念が活かせないかと思うとやるせない。
そこへ、フランスのナポレオン3世からメキシコで皇帝にならないかと妙な提案が届く。
なんでも、フランスはメキシコのファレス政権が内戦の為に外国債の利息支払いを停止した事を機に、メキシコに兵を出兵し、君主国家を作ろうと画策していると言う。
「どうかね、マクシミリアン君。君だって王家に生まれたからには玉座に座ってみたいだろう? 幸いアメリカは南北戦争の真っ最中だし、新国家形成を邪魔する奴はいないよ。無理にとは言わない、考えてみてくれ」と言葉巧みにマクシミリアンを誘い出だした。
つづく