ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
マイヤーリンクの心中事件⑦
「なんだかあか抜けない子ねぇ…」
シシィにとって、息子の嫁シュテファニーは、野暮ったく、自分の意見を持たずハプスブルク宮廷の気風に染まろうとする所がまた気に入らない。
※シュテファニーの出目はオランダ王女です。前章で説明を入れればよかったのですが、m(_ _)m
シシィは魅力的でない人間が嫌いなのだ。
いや、美しさに論点を置いているのではない。シシィは確かに美しい女性が好きだ。しかし、自分の意思が無い、流されるまま努力もしない諦めた女が嫌なのだ。
シュテファニーの受難は結婚式から既に始まった。
折角の結婚式でもシュテファニーの影は薄い。
それも仕方がない。
義理の母は半神と噂される絶世の美女だ。
そこへ来て、シシィは息子の結婚の席でも自分が主役と言わんばかりにドレスアップをして現れる。
それは、まるで、パッとしない風貌の花嫁を皮肉る様だった。
当然、招待客の視線は全てシシィに注がれる。
それに気付いてシシィもホクホクだ。
それでも新婚の内はルドルフも何かと妻を気にかけたが、シュテファニーとは趣味も会話も合わない。
「ほら、君も来てごらん。皆気さくでいい人達ばかりだよ」
ルドルフは一度だけ、いつも出入りする馴染みの居酒屋へシュテファニーを連れて行った事があった。
「なっ、何、この騒がしさ!? 不衛生だし、皆汚らしいし…ルドルフ、貴方いつもこんな所に出入りしているの?」
「あぁ、そうだよ。宮廷にいるより、余程いい」
「信じられないわ! こんな下品な人達と一緒にいるなんて」
ブスッとしたまま、料理にも手を付けない。
(これじゃ無理だな…)
ルドルフはますます女友達や娼婦達の間を渡り歩く様になり、挙句には性病をうつされてしまう。
不運にも、病はシュテファニーにも感染し、シュテファニーは子供が産めない身体になってしまった。
「…ったくアイツは、どうしようもない奴だ。」フランツ・ヨーゼフは怒り心頭だ。
ある夜の事、皇帝とルドルフはいつもの様に帝国の将来をめぐって言い合いになった。
「もういい! お前には帝国を継がせない! もう言い争いは御免だ。出てけ」
父親は最後の切り札を叩きつけた。
未来は絶たれた…自分は後継者から外された。
ルドルフは母の姿を求める。
シシィならどんな風に考えるだろう…間違っているのは自分なのだろうか?
珍しく宮廷に戻っていたシシィにルドルフは声を掛けようとする。
その顔は真っ青だ。
「あっ…は母上…あの…」
ルドルフはどう言葉を切り出せば良いのか躊躇する。
「あら、貴方、酷い顔をしてるわよ。大丈夫?」
「だ大丈夫だよ…うん、大丈夫さ。それよりさぁ…」
「そう、それなら良かったわ」
そう言うと、シシィは息子を無視して去って行ってしまった。
「………」
だめだ…自分には味方なんていないんだ!
体調も悪くなる一方だし…頑固者の父上だ、自分の未来はもうないだろう…もう死ぬしか道はないのだろうか?
未来に絶望し、病気でどんどん体調が悪くなってゆくルドルフは次第に死を考える様になる。
「ねぇ、ミッツィー。僕と一緒に死んでくれる?」
ルドルフは踊り子のミッツィーに死の道連れになってくれるかどうか聞く。
マリー・ギャスパル。
相性ミッツィーと呼ばれる、この女性はルドルフの一番のガールフレンドだ。
「はぁ? 何言っちゃってんの? 死ぬなんて。悪い冗談はよしてよ!」
ミッツィーはルドルフがいつもの様に冗談を言っているのだと思い笑い飛ばす。
「…だよね。 冗談だよ、ジョーダン。今のは忘れてくれていいよ。君がどんな顔をするかな?って試してみただけさ。」
(クソっ、ダメかぁ)
ルドルフは1人で死ぬ勇気はなかった。
ミッツィーがダメだとすると、誰が別に探すしかないか…
そして
ルドルフが死の道連れに選んだのが男爵令嬢マリア・ヴェッツェラ嬢だった。
つづく