ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
マイヤーリンクの心中事件⑥
味方のいない家庭。
母親不在の家庭で、いつも肩を寄せ合って暮らしたのは姉のギーゼラだった。
ギーゼラとルドルフは互いを自分の分身の様に感じながら、親のいない寂しさを庇い合いながら生きていた。
ギーゼラだけが自分の淋しさを分かってくれていた、唯一無二の家族だったのだ。
しかし、年頃になると最愛の姉も結婚し、ルドルフの元から去ってしまう。
嫁いでゆく姉を家族総出で見送りに行った時の事だ。
「うっ…うっ…ぐすっ。うっ、うっ…」
ルドルフにとって、姉との別れは片腕をもぎ取られる様なものだった。
プラットホームでギーゼラが家族1人、1人に別れの挨拶を始めると、ルドルフは耐えきれず嗚咽して泣き出した。
(ルドルフ様も可哀想に。本当に仲の良い姉弟だったからな…)
付き添いの侍従達も心が痛い。
ルドルフの涙にギーゼラを初め、居合わせた者は皆ハンカチで涙を拭った。
あの頑固者フランツ・ヨーゼフでさえも…しかし、ただ1人シシィだけは泣かなかった。
青年となったルドルフは、市民が集まる居酒屋やいかがわしい店にも出入りする様になる。
シシィと親交のあるウィーンの自由主義的な市民のサークルと、ルドルフは接触を持つ様になった。
当時、シシィは共和主義思想に深く傾倒していたのだ。
共和制・・・・後にルドルフは共和制を敷く事が時代に即したやり方ではないかと思う様になる。
ルドルフは市民と交わり、移り変わる時代の中、市民が何を求めているのか理解しようとする。
帝国内の民族、人民が自由に誰が上で誰が下でもない、そんな民主主義国家を確立したい……ルドルフは夢想する。
父が帝国の傘下の元に大小全ての国が緩く繋がり、お互いに助け合って何とか時代を生き抜く事に賭けたのに対し、ルドルフは老朽化した楔を解き放って、それぞれの民族のやり方で経済的にも政治的にも独立する事を主張した。
しかし、ルドルフの考え方は理想であり、この時代には時期尚早だったのだ。
市民と酒を酌み交わし、市民と一緒になって論議をする皇太子。
女優やダンサーと言った綺麗な女の子の間を渡り歩くやんちゃな皇太子。
ルドルフの生活は荒れていたが、一方でルドルフは新しい時代の皇太子として市民の人気を博していた。
「このぉ…大馬鹿者! 帝国の後継者がなにをやってる!!
何が民族の自由だ! お前の政治理念は幼稚過ぎる。それは絵にかいた餅だ」
「父上の考えが古過ぎるんだ。もっと世の中を見てよ! もうこの体制は終わりかけてる。
父上がどんなに必死に繫ぎ止めようとしても、無理なんだよっ!!」
父と息子の政治理念はあまりにも違い過ぎていた。
「ルドルフ、いい加減お前も身を固めたらどうだ。 結婚すれば、そんな浮ついた考えも変わるだろう」
ルドルフはオランダ王女シュテファニーと結婚する。
ルドルフはあまり乗り気ではない。
シュテファニーは幼く、余りに詰まらない。
つづく