ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
マイヤーリンクの心中事件③
ルドルフは物心がつくと軍人となるべく、厳しく躾けられた。
ルドルフにはシシィの性格が多分に引き継がれていた。
ルドルフは繊細だ。加えて、頑固一徹なフランツ・ヨーゼフと違いリベラルで柔軟な考え方を持っており、時代の気風を読む才覚が備わっていた。
しかし、軍人としての気質に溢れた厳格な父フランツ・ヨーゼフは、自分が出来た事は当然息子にも出来るものと信じて疑わなかった。
その為、ルドルフには幼い頃からスパルタ式に育てられた。
ルドルフの養育を任されたのはゴンドルクール伯爵だった。
彼は数々の功績を挙げた優秀な将校だったが、厳しさでも彼の右に出る者はいない。
「こっ、怖いよ~。ぼっ、僕ここで死んじゃうのかな~。助けて、パパ、ママ~」
「なぁにを弱っちいことをほざいてる、このガキァ~」
「ひいぃぃぃっ」
「ひぃ、じゃない、ひぃじゃ!課題をクリアする迄帰さねぇからなっ」
小さな子供を鍛え上げようと、サバイバルトレーニングさながらの非常に危険なトレーニングを皇太子に課した。
ルドルフは凍てつく様な寒い日に森の中で無防備に夜を過ごさせられたり、危険な射撃訓練を受けさせられたり、強行軍に参加したりしなければならなかったのだ。
「しっ死んでしまうぅぅ・・・。儚い人生だったな、ボク」
まだ幼いルドルフはまるで一兵卒の様な扱いを受けていたのだ。
「どうですかな、うちのルドルフは?」
「あぁ、陛下。皇太子殿下はシゴキ甲斐がありますよ。」
「そりゃ、結構。貴方の様な死を恐れない勇気ある人間に育って欲しいものです。頼りにしてまっせ、師匠!」
「任せなさいっ!フランツ・ヨーゼフ様のお望み通りのお子さんに仕立て上げますよ」
「ママ~・・・。助けて、ママ」
ルドルフは母に助けを求める。
不運な事に、ルドルフは母親に強く惹かれていたのに対して、シシィはルドルフに冷たかった。
シシィはハプスブルク家の手垢が着いたモノに対して、心底嫌悪したのだ。
助けを求めても誰も手を差し伸べてくれない・・・・。
余りの恐怖に、ルドルフが青ざめガタガタ震えていていても、訓練は止めることなく、子供にはあまりにも危険な訓練…むしろシゴキと言った方が相応しい…は続けられた。
その結果、繊細なルドルフの神経は傷付き、不眠症になりやがて体調を崩して寝込む様になってしまったのだった。
つづく