破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―⑥ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―⑥

 


シシィは自分が何の為に生きているか?自分探しの心の旅を続ける。

 

シシィはまず乗馬に夢中になった。

 

ハンガリー贔屓のシシィは馬に乗って平原を疾走する解放感が好きだった。

 

やがて、シシィはハンガリー独立に向けて活動する革命家アンドラーシーに恋心を抱く様になる。

 

シシィは馬を通して、アンドラーシ―と親交を深めハンガリー独立の力添えをする。

 

シシィは乗馬に生甲斐を見出していた。

いや、乗馬を通して自立を目指していたのだ。

シシィは疾走するだけの乗馬に飽きると、今度はイギリスに渡り競技用の乗馬技術を身に着ける事にした。

 

丁度この頃、ハンガリーの独立が認められ、シシィとアンドラーシーとの関係も終わりを迎えいたのだった。


アンドラーシーとの恋は、ハンガリー独立の為にシシィが利用されたのではないかと言う噂もあった。


しかし、アンドラーシーは一時は首に懸賞金をかけられた事のある革命家だ。

夢の中に住む情熱家のシシィには、どこか危険な香りがするアンドラーシーに、生真面目なフランツ・ヨーゼフにはない大人の男の色気を感じたのだろう。


シシィの新たなお気に入りは、イギリス人の騎兵隊将校ヘンリー・ホームズだ。

彼をコーチに迎え、シシィの腕前はプロ並みの腕前となった。


やがて、シシィはイギリスで乗馬の競技大会を主催する。

 

プロ級とは言え、横座りのスタイルでハードルを越えたりする激しい競技だ。


波いる男達の中に混じって、シシィも引けを取らない。

だが、流石のシシィも何度か落馬を経験す。

それでも、元来お転婆なシシィは落馬などどこ吹く風だ。

 

しかし、フランツ・ヨーゼフはシシィが落馬したと聞くと居ても立ってもいられない。


ただでさえ、フランツ・ヨーゼフはシシィが乗馬に夢中になっているのが危なっかしくて面白くないのだ。

 

加えて競技用の馬となるとお金が掛かる。


ウィーンでは、ロクにウィーンにもおらず、莫大な公費で乗馬をするとは何事だ!と非難が集中する。

 

こうした非難は皇帝の耳にも届く。

 

シシィが落馬したと聞かされる度、フランツ・ヨーゼフは心配して、皇妃に辞めるように忠告するが、シシィは聞く耳を持たない。


私のする事にいちいち感情しないで!

貴方には何の迷惑も援助も求めていないわ。


シシィはフランツ・ヨーゼフから送られてくるお金には全く手を付けていなかった。

馬に関する出費は全て自費で賄っていたのだ。


意外にもシシィは投資信託など資産の運用に長けていた。

シシィの死後、スイス銀行に預けていたシシィの預金額が公開された時、余りの莫大な預金にフランツ・ヨーゼフや管財人達は驚いた程だった。

 

しかし、


ある日突然、シシィは乗馬を辞める。


調教師兼コーチであるヘンリー・ホームズが同じイギリス人の女性と結婚したからだ。


ヘンリー・ホームズはシシィが自分に想いを寄せている事は知っていた。


しかし、相手は皇妃だ。

自分から近づく事など到底出来ないし、もし、自分の勝手な思い込みだったら…。


せめて、シシィから確信が持てる何かが得られれば、生涯を皇妃の為に投げ出していたかも知れない。


でも、現実の恋を前にどの様に振る舞えば良いのか分からないシシィは、一歩踏み込む事が出来なかった。


もうこれ以上待てない…これが潮時と考えたヘンリー・ホームズは偶像より実像を選んだ。

憧れの皇妃ではなく、自分の側にいる暖かく安らげる家庭を一緒に作って行ける女性を妻にする事を選んだ。

 

生き甲斐だった乗馬を失ったシシィ。

それでも…シシィは旅を止めない。シシィは旅先で作詩をする様になる。


いつか本にして出版しよう。

その収益は慈善事業に役立て様と考えていた。

 

一方、フランツ・ヨーゼフは、せめてもシシィの居場所が分かる様にと、シシィが心地よく滞在出来る様に、コルフ島にヴィラを建てる。

 

これで、いつでもシシィの居所が分かる。

 

しかし…

 

シシィは最初の内は嬉しそうに、内装に手を加え滞在していたが、やがてそれも飽きてコルフ島を去ってしまう。

 

そう、やっと手の中に捕まえた小鳥が去ってしまう様に…。

 

稀にフラっと宮廷に戻ったかと思っても、不愛想なシシィは、外交や皇帝夫妻が出席しなくてはならに国の行事でさえ、何かと理由をつけて欠席する。

 

美しいと評判の皇妃を一目見ようと外交がてら宮廷を訪れる王族達も、お目当てのシシィが不在なのでガッカリと肩を落として帰ってゆく。

 

シシィはどんなに大切な外国からの客人であろうと会おうとはしない。


フランツ・ヨーゼフから命令されても、知らぬ存ぜぬだし、稀に宮廷に居ても、人嫌いなシシィは体調が悪いとか何かと理由を付けて会おうとはしなかった。


シシィは自分の美しさを好色な男達の好奇の的にはさせない。


皇妃の役割を果たさないシシィは、宮廷からもウィーン市民からも評判が悪い。


(まずい!非常にまずい! これでは余計シシィの居場所が無くなってしまう)


ある時、思い切ってフランツ・ヨーゼフはシシィを諭した。

 

「子供達の為にも少しは宮廷に居てくれないか。 君の為に用意する館の費用だって公費から出ているんだよ。 それに皇妃の旅行となれば護衛に軍1個隊が必要だ。もう少し、皇妃だと言う自覚をもって欲しいんだ」と。

 

すると、シシィは

「分かったわ。もうハプスブルクの手の届いた所に泊まらなければ良いのね!」と、プイっと部屋を出ると、以降、皇室の館には泊まらずホテルを常宿とする様になってしまった。

 

皇室の人間が皇室所有の私邸や公邸を使わず、いくら皇室御用達とは言え民間のホテルを使用する事は危険が生じる。

特に、治安の悪い19世紀では自殺行為だ。


シシィは少しずつ死に憧れを抱く様になっていった。


つづく