ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―⑤
「あぁ~、快適。ホント自由って素敵だわ~っ!! 好きな時に好きな事をして、誰からも文句を言われないって最高っ!!」
療養先ではマンドリンを弾いたり、ハンガリー語を習ったりしながらのんびりと過ごす。
到着して暫くは咳き込む事が多かったが、2週間、3週間と日が経つにつれてシシィは見違える程元気になっていった。
ウィーンにいるフランツ・ヨーゼフからは毎日の様に手紙が届く。
「ウザっ‼ また今日も手紙が来てる…」
「あっ、また今日も…」
封を開けるが、サラッと目を通して終わりにしてしまうシシィ。
(もう…ホントほっといてよ!側にいる時は何もしてくれなかった癖に)
それでも、時折、良心が咎めるのか、気が向いた日にはウィーンに充てて返信を送る。
当然、ウィーンにいるフランツ・ヨーゼフは殆ど自分が書いた手紙が読まれていない事など知るよしもない。
フランツ・ヨーゼフはシシィから手紙か届くと嬉しそうに読み、それだけで1日を幸せな気分で過ごせるのだった。(哀れよのぉ〜by著者心の声)
半年が過ぎシシィの病状はすっかり良くなった。
しかし…
元気になるのは嬉しいが、また、あの牢獄(=宮廷)に戻るのかと思うと気分が重くなる。
晩年になると、シシィもゾフィーが何故自分にあの様な態度を示したのか、ゾフィーの気持ちに理解を示す様になる。
しかし、未だ未だ若いシシィには、そこまで気持ちは回らない。
ただ自由になりたいのだ。
これは世に伝わる様な単なる嫁姑問題では決してなかった。
シシィが憎むのはハプスブルクと言う体制なのだ。
ただその象徴がゾフィーだっただけに過ぎない。
さすがに半年も経ったのだから、そろそろウィーンに戻って来いと、催促の手紙が届く。
フランツ・ヨーゼフはお待ちかねだ。
(はぁ…、またあそこに戻るのぉ…ヤダな…)
マデイラに留まる理由も見つからず、渋々、シシィは宮廷に戻る。
しかし・・・・
宮廷に戻ったシシィは、途端に具合が悪くなってしまう。
今でこそストレスから体調不良を引き起こす事は周知の事実だが、当時の医学では心の問題が身体へ影響を及ぼす事など考えも及ばなかった。
完治したのではなかったのか?
いや、きっと皇妃の仮病だろう。
皆、思い思いに推測するも、シシィの具合は悪くなる一方だ。
思い余った宮廷は、シシィに再び療養の旅に出る事を許可する。
幾度も繰り返される、帰還と旅の繰り返し…。
ウィーンっ子はロクに帝都にいない皇妃に不信感を持ってしまう。
きっと、自分達は見捨てられたんだ…。
誰も皇妃に期待しなくなってしまった。
ウィーンっ子達は、皇妃と言う意味の「カイゼリン」と言う言葉をもじって「奇妙な人」と言う意味で「カイゼリン」と呼ぶ様になる。
それでも旅をする事を辞めないシシィは考える。
(旅は一時凌ぎでしかないわ。根本は何も変わらない。私の人生は何? こんな根無し草の様な生活をしていて私は幸せ?)と。
19世紀末、貴族達の中には貴族社会に居る事を嫌い、一個人として自分が何が出来るのか、自分の自由意思に従って生きて行きたいと階級を捨てる貴族達が出て来た時代でもあった。
しかし、実際、貴族階級を捨てた多くの者達は、結局、階級と言う後ろ盾が無ければ自分は何も出来ないと言う現実を突き付けられ終わって行く者ばかりだった。
シシィもそんな考え方を持つ貴族の1人だったのだ。
つづく