ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―④
皇妃重病!!
宮廷ではシシィが肺を病んでいると言う噂で持ち切りになった。
当時、結核は死の病だった。
日に日に痩せ細り、顔色が悪くなるシシィに侍医から転地療養の話が持ち上がる。
「このままではあの娘は死んでしまうかもしれない…。少しでも体調が良くなるのであれば療養の旅に出しましょう」普段反りが合わないゾフィーもシシィの体調が心配だ。
冬場をウィーンで過ごしたくないと言うシシィの希望が叶い転地療養に出る事に決まった。
場所はマデイラ島。
出発の日。
誰もがシシィは二度と生きて戻ってこれないのではないかと覚悟した。
「行ってらっしゃい、シシィさん。無理しちゃダメよ」
「シシィ、元気になって戻って来るんだよ」
「ママ…。元気になってね」
家族は心から心配をする。
「まだ若いのに…」このままシシィが死んでしまったらと思うと、ゾフィーでさえ不憫で目頭が熱くなってしまう。
しかし、シシィは
「……」
家族に対して一言も返す言葉が見当たらない。
お世辞とか建前と言うモノが彼女の観念にはないのだ。
それよりも「早くこの家族から離れたい!」そんな思いでいっぱいだった。
シシィ肺病のニュースはヨーロッパ各国に伝わり、オーストリア海軍に丁度良い船が無いのを知ったイギリスのヴィクトリア女王は、大西洋を航海するのなら自分のヨットを使って欲しいと申し出てくれた。
ウィーンから汽車が遠ざかるにつれて、シシィの心は軽くなる。
「シシィ、体調が良くなったら様子を知らせるんだよ。僕は毎日手紙を書くからね」
「シシィ、マデイラの日差しは身体に良くても、余り長く時間外に出ちゃダメだよ。身体に障るからね」
(あぁ、後はフランツ・ヨーゼフさえ帰ってくれれば…)
シシィは隣りであれやこれやと旅先の事を心配する夫が疎ましい。
バンベルクで見送りのフランツ・ヨーゼフと別れ、シシィ一行はイギリス船の待つアントワープへ向かう。
(あぁ、あの忌々しい家族がいないって、なんて素敵なの!なんて自由なの!!)
シシィはゾフィーの手先のエスターハージ―女官長が一緒に来ない様必死で画策し、仲の良いヴィンディッシュグレーツ伯爵夫人を看護係として連れて行く事に成功してホクホクだ。
つづく