ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―③
しかし、だ!悪事はバレる。必ずバレる。
どこから聞いたのか、シシィの耳に皇帝が浮気をしていることがバレてしまう。
ツーーーーーーーン
(あれ? 何時にもまして、なんだか剣があるぞ)
「シシィ、あのね、今日さ…」
フン!
「なっ、何だよぉ。 シシィ何怒ってるのさ?」
バシーーーーーン!
「って!! 痛いじゃないか! 何、行き成り殴るんだよぉ」
「もう、アナタなんて大っ嫌い! これ迄もアナタなんて充てにしていなかったけど、金輪際、アナタとも宮廷とも距離を置かせて頂きますっ!! もう、寝室も分けさせて頂きますっ!!」
「えーーっ、ちょと待ってよ。浮気の事は誤るよ。でも何も宮廷から孤立する事はないじゃない」
「馬鹿――――っ!!」
そう、シシィはフランツ・ヨーゼフの浮気の事に対して腹を立てている訳ではなかった。
浮気そのものより、問題から逃げた事に怒っていたのだった。
そして、「皇帝だから許される」「皇妃なのだから黙って耐えろ」と言う宮廷の在り方に怒っていた。
(私はハプスブルク家と結婚した訳じゃないわ!フランツィーの事を愛していたから結婚に踏み切ったのに!)
シシィは宮廷の規律に縛らる様な考えは毛頭なかったし、宮廷やハプスブルクの抱える問題について誰も自分の元に意見を聞いて来ない事に対して、自分はここでは不要な人間なのだと思っていた。
ましてや、自分はハプスブルク家の子孫繁栄の為の都合の良い道具になる気などさらさらない。
自分が必死になって救いの手を求めていた時、フランツ・ヨーゼフはただの1度も救いの手を差し伸べようとさえしなかった……。
シシィとフランツ・ヨーゼフの結婚は既に破綻していたのだった。
(もう、こんな所、居たくない…)
心を閉ざしたシシィの体調はみるみる内に悪くなった。
咳が止まらなくなり、ほとんど面会謝絶の状態となった。
つづく