ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
破綻した結婚生活―彷徨える皇妃―①
「ふぅ…。やっても、やっても仕事が減らないなぁ」
「おや、陛下。最近残業ですか?」
「うーん、ほらこの間のイタリア戦はソルフェリーノで完敗しちゃったじゃない?
僕が直々に指揮をとったのにさぁ。あれは、完璧だったと思うのね。
でね、僕、思ったんだよねぇ。僕は軍師向きじゃないなぁって。やっぱさぁ、僕は執務室にいるべき人間なんだよねぇ」
「はぁ……(すっげーポジティブ思考。自分に非はねーのかよっ!!)」
グリュネ伯爵は思う、イタリア戦でフランツ・ヨーゼフが先頭を切って指揮を取った事は絶対にフランツ・ヨーゼフの判断ミスだった、と。
4万人を超える夥しい数の死傷者が置き去りにされ、余りの光景に負傷者達を病院に搬送したのが、後に赤十字の父と呼ばれたアンリ・デュナンだ。
「でも、イタリアも東欧もこじれちゃって…ううっ、手に余る~」
「長年ハプスブルクが抱えている難問ですからねぇ。今日はもう切上げてご帰宅されては如何ですか? ルドルフ様もお生まれになった事だし、お顔も見たいでしょう」
「それがさぁ、家に帰りたくないのよぉ~」
「おや、それはまた何で?」
「だってぇ、シシィっては自分の事ばっかりで、ちっとも僕に構ってくんないんだもん!」
「そっすか…」
「僕が戦地のイタリアに行ってた時はさぁ、何度も熱烈なラブレターが届いたんだよ。だから僕もさっさと片付けて家に帰ろうと頑張ったんだ」
(…さっさと、ってオマエ…。あれだけの死傷者を出しておきながら。)
皇帝は若いから…とは言え、一瞬グリュネはイラっとする。
「それが家に帰ったら、はい乗馬です、それ運動ですって…美に磨きをかけるんだって。グリュネ君はシシィの乗馬に付き添ってるよね、…いいなぁ、一緒にいられて」
「はぁ、皇妃様の乗馬の腕前は素人の域を抜けていますからなぁ」
「えっ、そうなの? 僕、彼女の事ちっとも知らないんだよねぇ。 何だかさぁ、僕や母上の事を避けているって言うか。
そうそう、避けるって言えば、母上やエルテルハージ伯爵夫人(シシィの女官長)ともソリが合わなくて。
国家の問題は仕方がないさ、僕、皇帝だからね。でもさ、家庭がグチャグチャなのって…間に挟まれている身にもなってよぉ~」フランツ・ヨーゼフはかなりゲッソリしている。
「(アンタが惚れた女房だろーが)陛下も大変ですな。少し気晴らしでもされたら如何ですか?」
「うん、気晴らしは時々してるよ。こないだも女友達に話を聞いて貰ったりし。あっ、これシシィに内緒ね。別に変な関係じゃないけど、下手に勘繰られても嫌だから」
「ええ、分かっていますとも。眉目秀麗な陛下ですから、シシィ様の他に女性のお友達の1人や2人位いらしても…」
「あのねぇ、そーゆー言い方が誤解を招くんだからねっ! 気を付けてよ。そりゃ、自分で言うのも何だけど、僕モテるけどね。」
「(坊ちゃん育ちとは言えムカつく!)申し訳ございません。でも、偶には違った所へ行かれては如何でしょう…ようございます!ここはグリュネの人脈と使いまして目ぼしい女の子を見繕いますから、陛下は楽しんで来て下さいまし!」
つづく
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