ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
皇妃エリザベート①~姉のお見合い~
「まだ支度は出来ないの? 早くして頂戴っ‼︎あちらはもう直ぐ到着するのよ!」
ルドヴィーカは使用人に娘の支度を急がせる。
今日はヘレネと皇帝の顔合わせの日だ。
「まったく…。なんだかこのお見合い、上手くい進まない事ばかりだわ」
ルドヴィーカはため息をつく。
そりゃ、そうだろう。
ヘレネとフランツ・ヨーゼフのお見合いは、日取りが決まってから、ケチのつきっぱなしだった。
遡ること4か月前。
最初のお見合いの日取りが決まって間も無く、フランツ・ヨーゼフがハンガリー人の活動家から刺され、暗殺されかけた。
皇帝は犯人を殺してはいけないと恩赦をした為、むしろフランツ・ヨーゼフに対する親愛度は増したが、刺された時の傷が中々回復せず、お見合いは延期となってしまった。
そして、今回。
仕切り直していざお見合い!となった矢先、親戚に不幸が起こり、一行は葬儀に出席し、その足でお見合い先のバートイシュルへ向かう事になったのだった。
お葬式だなんて、縁起でもない・・・・
しかし、悪い事は続くもので、お見合いの席で着る筈だった衣装が入った荷物の到着が遅れ、ヘレネ達は黒衣のまま皇帝に会う羽目になってしまった。
(せっかく、この日の為にドレスも新調したのに…)
このお見合いはほぼ決まったものとは言え、やはり「綺麗な私」を見て欲しいと言うのが女心と言うモノ。
折角、憧れの皇帝に会うのに。
未来の夫と初めて会うのに、よりによって喪服だなんて…こんな地味な服で会うなんて最悪だわ…。
ヘレネは気分が晴れず、半べそ気味だ。
実際、黒い服はヘレネの精彩を欠いた。
しかし、それとは反対に黒衣は、ほっそりとしたシシィの美しさをより際立たせていた。
「ヘレネ仕方がないでしょ! これしか着る服がないんだから」
思う様に事が進まず、ルドーヴィカの苛立ちはピークを迎えていた。
(幾ら事情は分かってくれていると言っても、先方を待たして、印象を悪くしたらそれこそ一大事!この際、服なんてどうでもいいからぁぁ~)
娘の気持ちにも気づかず、ルドーヴィカは支度を急がせる。
つづく