ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
皇妃エリザベート②~姉のお見合い~
このお見合いにはルドヴィーカの並々ならぬ努力があった。
ルドヴィーカはバイエルン王家の出身だ。
しかし、王家の子女の中で、自分だけがいつも貧乏くじばかり引いていると思っていた。
姉達が名のある王家に嫁いで行ったのに、自分が嫁いだのは名門のヴィッテルスバハ家とは言え、その傍系だった。
しかも、夫となったマクシリミリアンは変わり者だ。
「変わり者」と言えば語弊があるだろう。
マックスは、当時としては革新的かつオープンな性格で自由をこよなく好んだ。
進んで市民と関わり、文学や哲学・科学といった学問が好きで市民が通う大学を卒業していた。
そんな時代の先端を行くマックスと古めかしい狭い世界に生きるルドヴィーカとは当然合う筈もなかった。
マックスは外に恋人を持ち、マックスとの間に子供を持った恋人が何人もいたのだった。
ルドヴィーカと大公妃ゾフィーは姉妹だった。
「ねえ、姉さん、娘の縁談でどこか良いところがないかしら?」
愛情のない結婚生活にうんざりしていたルドヴィーカは、娘の結婚が成功すれば自分の不運が帳消しにでもなるかの如く、何が何でも娘達は良家に嫁がせたいと娘の婚活に奔走していたのだった。
「そうね…うちのフランツィーはどうかしら? アナタのところのヘレネさんと年齢的に良いんじゃない?」
ヘレネがハプスブルク家のお嫁さんに?!
相手は大帝国の御曹司だ。
国家情勢によっては別の王女との結婚も十分あり得るだろうが、ルドヴィーカはヘレネが皇帝の妃になるものと考え、物心つく頃から帝妃に相応しい女性になれる様厳しく躾けた。
一方、ハプスブルク側は?と言うと、フランツ・ヨーゼフの結婚問題も暗礁に乗り上げていた。
ゾフィーはルドヴィーカに息子の嫁に姪を勧めたものの、ハプスブルクと縁組をしたいと申し出る王女は大勢いると思っていた。
何も姪とは言え、お后候補を格式の全く違うバイエルンの田舎貴族の娘1人に絞る気は無く、花嫁探しに奔走した。
しかし、いざ蓋を開けてみるとハプスブルクに利のありそうな王女は殆ど婚約済で、結婚相手に相応しい王女は殆ど残ってはいなかったのだ。
実際のところ、ゾフィーは愛息と姪との結婚話などすっかり忘れていた。
そこへ来て、
「姉さん、あの話はどうなっているかしら…」
一向に姉のゾフィーから色好い返事が来ない事に剛を煮やしたルドヴィーカから催促が来たと言う訳だった。
ゾフィーは考える。
ルドヴィーカの子供達とは以前会った事もあるし、決して知らない仲ではない。
めぼしい花嫁候補もいないし、傍系とは言えヴィッテルスバハ家なら悪くもないか…と。
その様ないきさつで、フランツ・ヨーゼフのお后候補としてヘレネに白羽の矢が立ったのだった。
「シシィ、ちょこちょこしない! ほら行くわよ」
「はーい。 あっ、ママ、ネネ、待って…」
使用人は皆、姉の支度に掛かりきりで、誰もシシィの着付けを手伝う余裕などない。
シシィと呼ばれていた妹のエリザベートは自分で髪を三つ編みに結い、姉の支度が終わるまで、窓の外を覗いたり、椅子に飛び乗ったりしながら、姉の支度が完成するのを待っていた。
シンプルな黒い喪服はほっそりとしたシシィにぴったりで、かえってシシィの美しさを引き立たせていた。
つづく