ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
メッテルニヒ追放No.12~新皇帝は誰だ!~
ゾフィーは改めて夫に皇位継承権を放棄する様念押しをする。
「いま、内閣からお義兄様に退位して頂いてフランツィーを皇帝した方が良いんじゃないか、って打診されているのだけれど、アナタ、それで異存ないわよね⁈」
が、何を思ったのか、急に夫フランツ・カールはゾフィーに反発し、自分が帝位に就くと言って聞かない。
「ちょっと、今更、何言ってんのよ! アンタには無理だって口が酸っぱくなるほど言っているじゃない」
「煩い! 我が家の問題に他人が口を出すな。父フランツ1世が亡くなる時、皇位継承は序列を順守する様にいったんだ。この権利は神聖なもので、絶対に破ってはいけないんだっ!」
断固として帝位に就こうとするフランツ・カール大公に、宮廷側でも「その覚悟は大したもんだ。それ程言うなら…」と言う声が上がり始めた。
ゾフィー大公妃もシュワルツェンベルク侯爵も、そこまで頑ななら仕方がない、それなら、ここは男を見せてもらおうじゃないか、と諦めかけたある日の朝の事……。
「あら、アナタ、おはよう。何だかお顔の色が優れませんのねぇ」
「うーーん…」
「…?」
「ゾフィー、私は皇帝になるのを辞めるぞ!」
挨拶もそこそこにフランツ・カールは息子に帝位を譲ると発言する。
「えっ、ええーっ!なっ、なんです、藪から棒に。どういう心境の変化です?」
「実はな、夢の中に亡き父上が出て来て、夢枕に立ってこう言うんだよ。「息子フランツ・ヨーゼフに帝位を譲る様に」って。何だか、これがお告げの様な気がして来て…父上が言うなら仕方がない、フランツィーに皇帝になって貰おう」
はぁ?………。
夢枕って…。あ〜んぐり。
(バカ、バカ、このおバカ!なら、始めからそうすればいいじゃん!散々ぐずりやがって、何がお告げよ。この人のこう言う所が嫌いなのよ。もぉぉ、ったく、蹴ってやろうかしらっ。)
たかが夢ごときで、帝国の未来を決められたら国も皇室も堪ったもんじゃない。
こんなスットコドッコイはさっさと引っ込んで貰わなくては……。
フランツ・カールの気が変わらない内に、ゾフィーはさっさと愛息フランツ・ヨーゼフを帝位に押し上げた。
こうして、ハプスブルク帝国の舵取りは18歳3ヶ月の若者の双肩が担う事となる。
メッテルニヒ追放・完