ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
メッテルニヒ追放No.11~フェルディナント帝位を降ろされる~
どこか抜け作揃いのハプスブルク宮廷だ。
独立を目指す民族の動きが激しくなると今度はメッテルニヒを辞任させた黒幕は誰だと犯人捜しを始める。
優柔不断な皇帝は、その時々で国民派になったり王宮側の意見に賛成したり、フ~ラ、フ~ラしているモノだから「こいつ信用なんねぇ」と市民は反旗を振りかざす。
国民は、皇帝がおつむが弱い事を知っているけれど…知っちゃぁいるけど我慢にも限界があると言うモノだ。
国民よりの政策に出るのかよ!それとも旧体制の王政を敷くのかよ。はっきりせんかーいっ!
旧体制に戻るのも腹が立つけれど、どっちつかずと言うのも気持ちの持ちようがなく、国民の怒りは皇帝に向かって爆発する。
とうとう皇帝一家はウィーンにいられなくなり、チェコはポーランド国境近くあるオルミュッツと言う街に逃げる。
「なっ、なんだよ、皆で寄ってたかって…僕ちゃんが何をしたっていうんだよ。もう、知らないからね、後の事は知らないからね、皇帝軍を使って鎮圧させちゃうからねーっ」
皇帝はオルミュッツの街から宣戦布告をし、帝国領から総動員された皇帝軍と国民軍とで争う様になる。
この戦いはウィーン社会をずたずたに引き裂いた。
側近から刻一刻とウィーンの戦況が報告される。
フェルディナントの弱いおつむにもウィーン市民の悲惨な状況は聞くに堪えなかった様だ。
「うわぁ~ん、どうしよう。そんなつもりはなかったのに…ごめんよ、ごめんよ。うっ、うっ…(泣)」
でも、もう遅い。
それまでフェルディナント帝に親愛の情を持ち続けてきた市民達だったが、この内戦を境として皇帝に怒りと非難が集中した。
皇帝はすっかり信頼を失い、ウィーンに帰ろうにも帰れなくなってしまった。
そればかりか宮廷に対する市民の忠誠心まで危うい。
これが潮時と思ったのか、ウィーンの参謀本部からシュワルツェンベルク侯爵がオルミュッツの宮廷にやってきて、皇妃とゾフィー大公妃に国家の将来について進言をした。
宮廷の中でも、皇妃マリア・アンナとゾフィー大公妃が冷製沈着な判断力を持っていたからだ。
「もはやこれ以上皇帝陛下が在位し続けると国家が持ちません。陛下にはご退位さるのが宜しいかと思われます」
シュワルツェンベルクは続ける。
「順序からすれば、次は皇帝の弟君のフランツ・カール大公となりますが、大公のご性格や資質の点から見てもこの難局を乗り切るには不適格かと思われます。したがって、この際、思い切って若いフランツ・ヨーゼフ様を皇位につける事を進言いたします」
皇妃とゾフィー大公妃も方法はそれしかないと見たが、その心中は複雑だった。
ゾフィーは思った。
ゾフィーは夫に帝位に就くほどの能力がない事は分かっていた為、兼ねてから夫に皇位継承権の放棄を説得していた。
ゾフィーは勝気な性格の女性だ。
確かに、帝妃の地位には憧れる。
しかし・・・・
皇帝の母と言うのも悪くはない。
いや、下手に皇妃になって政治に口出しをすれば反感を買う恐れがある。皇帝の母こそが相応しいのではなかろうか。
フランツ・ヨーゼフは18歳とは言え、成人になったばかり。自ら摂政として事実上采配を振るうのも悪くはないのではないだろうか?
私の息子が皇帝になる!
ふふふ…長い事耐えてきた甲斐があったと言うものだわ。
つづく