母と息子の対立③ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

母と息子の対立③

 

 

幼い頃からプロイセン王フリードリヒに憧れていたヨーゼフは母に内緒でフリードリヒと2人だけで会見をする。

 

そこでフリードリヒとヨーゼフは意気投合してしまう。

 

いや、意気投合したと思っていたのはヨーゼフだけかもしれない。

策略家のフリードリヒは血気盛んな若者の心情を巧みに利用して、ヨーゼフの懐に入り込んだに過ぎない。

 

そしてカウニッツとヨーゼフ相手に、巧みにポーランド割譲を提案する。

 

「やぁ、親愛なるヨーゼフ陛下! 今日は貴方と私の友情の証として素敵な話を持ってきたのだよ」

 

憧れの元帥であり君主のフリードリヒから、友情だの陛下だの甘い言葉をかけられてヨーゼフは有頂天になってしまう。

 

「閣下、何んでしょう。私の様な若輩者が閣下の期待に沿えるかどうか…」頬を上気させヨーゼフが答える。

 

「ふん、そんな難しい話ではありませんよ。陛下も皇帝になられてそろそろ大手柄が欲しい頃ではありませんか? 私は陛下に相応しい贈物がしたいんですよ。どうです、ロシアとプロイセン、オーストリアでポーランドの領地を分割しませんか? ロシアは既に賛成です。 貴方のお母様の為にハプスブルク領は大分小さくなってしまった。 ここで領地を一気に拡大させませんかね。国民も喜ぶでしょうし、貴方の名声も上がるでしょう」

 

(ナイスアイデア!! これだから男同士の話は良いんだよなぁ)

 

「ええ、僕も賛成です。 カウニッツも不満はないよね、ねっ?」

 

「ええ、私も良いお考えかと…」

 

「でもさぁ、母上がなぁ…。あの人は僕の事が気にくわないんだよ。やる事成す事ケチをつけるんだ」

 

「ははは…大丈夫ですよ。私の言う通りにやれば、お母様も黙って判を押してくれるでしょう。ええ、彼女は受け取りますよ、泣きながらね…」

 

ポーランド割譲の話を聞いてテレーゼは猛烈に反対した。

 

「冗談じゃないわ! 貴方、気は確かなの?

ポーランドなんて縁もゆかりもない土地じゃない!! いくらポーランドが内紛状態だからといって、自分の達の国益だけを考えて、余所の国をバラバラにして我が物にするなんて、泥棒同然だわ。ええ、ええ、どうせあのフリードリヒという大泥棒が考えた事でしょうよ。あの人は、そうやってハプスブルクを乗っ取ろうとしたのですから。

私は絶対に許さないわよ!! そうな風に他国から侵略されてポーランド人の自由が奪われるなんて…そんな恥ずかしい事、王者のする事じゃないわ!」

テレーゼは烈火の如く怒る。

 

テレーゼはシュレージエンをプロイセンに奪われた時、どれほどシュレージエンの国民が惨めな生活をさせられていたか身に染みて知っている。

耳を塞ぎ、目を覆いたくなる様な惨状だった。


それと同じ事を今度は自分達の手でするなんて…。

 

しかし、このポーランド割譲は狡猾に仕組まれており、テレーゼ1人が反対して手に追える計画ではなかった。


テレーゼは来る日も来る日も署名を強要するヨーゼフを断固として拒否し続けたが、とうとう立ち行かなくなってしまった。


フリードリヒが言った様に、テレーゼは批准書に署名を迫られ、泣く泣くサインをする事となった。

 

あゝ、ポーランド人から祖国を奪うなんて、何たる恥知らず‼︎

私の手でハプスブルクの家名に泥を塗るなんて…。


私の最後の仕事が他国の人民を不孝にする事だなんて…。


テレーゼは大粒の涙を流しながら、心の中でポーランドの国民に手を合わせる。


(私のせいで酷い思いをさせてしまって。ゴメンなさい。本当にゴメンなさい……神様、どうかポーランドの国民に祝福を…)


もぎ取る様にテレーゼの署名入りの批准書を手に入れたヨーゼフはフリードリヒの元に急ぐ。


1人の若者の功名心によって起きたポーランド割譲は、ハプスブルク史・マリアテレジアの治世に汚点を残す事になる。

 

この後も、テレーゼは子供達に関する心配事は絶えなかった。

 

トスカーナ大公ポルドルは痩せ細って行くし、何かとてつもない病気なのかテレーゼはハラハラしてしまう。

 

太っちょのマクシィと呼ばれた末っ子のマクシミリアンも原因不明の病で足がパンパンに腫れてしまう。

なんとか回復したものの、愛想が良い性質ではないので社交界でやっていけるのかどうか気になってしまう。

 

そして何といっても、一番の心配の種は末娘のアントーニアの事だ。

 

政治の駆引きの難しさや醜さを嫌と言う程味わったテレーゼは、アントーニアには同じ苦労をさせたくなかった為、政治を教える事はしなかった。

 

彼女にはただただフランス王妃として世継ぎを産み、国民から愛される王妃でいる事しか望まなかった。

 

しかし、現実はテレーゼの願いとは全く違う方向に舵を取っていった。

 

アントーニアは中々懐妊の兆しを見せなかったし、兄弟仲の悪かったフランス宮廷ではアントーニアの夫ルイ16世が叔父オルレアン公の策略によって王政から引きずり降ろされそうとしていた。

 

それがフランス宮廷の流儀と言われば言い返す言葉はないが、ドイツ流の考え方とフランス流の考え方は大きく違い、テレーゼは娘のやる事成す事が何かとてつもなく恐ろしい結果を招きそうで見ていられない。

 

テレーゼはただただ神に祈る


「私の娘の産んだ子供がフランスの王座に就く日が来ます様に。そして娘が不幸になるのを見なくても済みます様に…」と。

 

神様は、アントーニアが男の子を生むと言う夢をテレーゼが生きている間に叶えてくれる事はなかった。

しかし、娘の不幸な姿を見たくないと言うもう一つの夢は叶えた。

 

 

母と息子の対立・完