ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
母と息子の対立②
テレーゼと長男ヨーゼフとの関係は年を重ねるたびに険悪になっていった。
ヨーゼフにはヨーゼフの政治理念がある。
「なんだい、あのハンガリー貴族の奴ら。ハプスブルクの臣下の癖して要求が多過ぎるぞ!」とヨーゼフは憤る。
「いいのよ、ヨーゼフ。あの者達は良くやってくれているわ。ハンガリー人程信頼出来る人種はいないわ」
テレーゼは30年前のあの日の事は忘れない。
父が亡くなった時、ヨーロッパの親戚達(=王室)は誰一人お悔やみの手紙さえ寄こさなかった。
それどころか舌なめずりして、ハプスブルクを狙っていたではないか!
その時唯一味方になってくれたのは、ハンガリー人とイスラム教徒だけだったのだ。
※イスラム教徒はハプスブルクが危機に瀕している時、戦争をしないでくれた。
テレーゼは一度受けた恩は何があっても守った。
私の目の黒い内は、ハンガリー貴族の特権を絶対に守る!!
だからテレーゼはピシャリと言う
「私が生きている間はハンガリー人を悪く言う事は許しません! ハンガリーに対して勝手な事をするのもねっ!!」
それ故に、ハンガリー貴族もテレーゼの願いは、ほぼほぼ聞き入れてくれる。
ハンガリーにとってハプスブルクは「テレーゼあってのハプスブルク」なのだ。
テレーゼ亡き後、ハンガリーとハプスブルクの関係は崩れていく。
「全く母上は何を考えているのか分からん!! もう古いんだよ、あの人のやり方は」とヨーゼフはテレーゼのやり方が気に入らない。
ヨーゼフは「これだ!」と妙案を思いつくと直ぐに行動を起こす。決して熟考する事をしない。
その為、周りを巻き込んで動き出すのは良いが、途中で上手く立ち行かなくなり、結局撤回すると言う事が殆どなのだ。
ヨーゼフの思い付きに付合わされる家臣や国民はいい迷惑と言うモノだ。
それを見てテレーゼは叱る「貴方は浅はか過ぎます! 良く考えなさい。物事は多方面から見ないと問題の核心は分からないモノです」
「るせーっ!」
全てがこんな調子だから、ヨーゼフは話をするもの嫌になってしまった。
テレーゼだって、別に好きで批判をしている訳ではない。
むしろ、テレーゼはヨーゼフを愛していた。多分、誰よりも……。
いや、ヨーゼフも母の事を大切に思っていた。
お互いに相手を思っているからこそ、掛け違えた歯車が合わなくなってしまったのだ。
テレーゼとヨーゼフは直接喋ると喧嘩になる為、手紙を介してしか話さなくなっていった。
そんな2人に青天の霹靂とも言える事が起こる。
つづく