ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
母と息子の対立①
病魔から回復したとは言えテレーゼは体調が良くない。
肥満によってテレーゼの膝は悲鳴を上げていた。
他にも、浮腫みが酷く、視力も聴力も悪くなっていた。
20年間に渡って繰り返された出産と激務。
朝は5時に起きて書類と格闘し、子供が熱を出せば深夜遅くまで看病をしてきた。
20代の頃のテレーゼは、家事と政務の合間を縫って、朝までダンスを楽しんでは、侍従のタウロカからこってり絞られたものだった。
そんなテレーゼを始めとするハプスブルク家の健康を支えていたのが、スペイン風ごった煮と言われる「オリオスープ」だ。
良質の肉や野菜を贅沢に使い、長時間煮込んで濾した、栄養満点だがハイカロリーなスープ。
他にもテレーゼはミルクのたっぷり入ったコーヒーを好んだが、この「オリオ・スープ」も良く飲んでいた。
これがテレーゼの元気の源だった。
繰り返す出産と高カロリーな食事、激務と運動不足、これらの組合せが若き日のほっそりとした女帝を肥満体に変えていった。
これでは幾ら丈夫だと言っても、年齢と共に健康に陰りが現れても仕方がない。
最近では歩くのも一苦労だ。
テレーゼは時々、カプチーナ教会の地下にあるフランツの墓所に向かう。
階段を下りるのも一苦労のテレーゼの為に、座ったまま自動で階段を降りられる様、エレベーター風の椅子が取り付けられた。
ある時、スカートの裾がエレベーターに引っ掛かってテレーゼは上に上がれなくなってしまった事があった。
テレーゼには以前ほどの生気はない。
テレーゼは親しい友人に宛てて、心の内を打ち明ける。
「私も最近は殆ど目が見えないし、足が浮腫んで痛いわ。この間なんて危うく地下の墓所から戻れなくなるところでした。きっとご先祖様達が私をあの世に連れて行こうとしたのだわ」
しかし、テレーゼに悩んでいる暇はない。
何故なら、新皇帝となったヨーゼフは思慮に欠けているから。
彼はじっくり物事を考えようとしない。
性急に事を運んでは反感を買い、すると今度は一度出した政策を取りやめる。
テレーゼは安心して引退する事が出来ないのだ。
つづく