愛は永遠に、フランツ死す⑥ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

愛は永遠に、フランツ死す⑥

 

 

テレーゼは夢の中にいた。

 

・・・・レースル。

 

「フランツ? あら、貴方随分若々しいのね。昔のままだわ。私なんて、ほら、こんなに太ってしまって・・・。でも、ちょっと待って、貴方、何故ここに居るの?生きていたの?」

 

「ははは、レースル。僕は今あっちの世界にいるんだよ。君はまだこっちの世界だ」

 

「そうなのね。じゃあ、私も一緒に行っていいかしら」

 

(フランツは悲しそうな顔をする)

そしてテレーゼが顔を上げると、懐かしい父と母が微笑みながら立っている。

 

「レースル、良く頑張ったね、偉いぞ!!

 

「あっ、パパ!! ママも!! 皆一緒なのね」テレーゼは子供の頃の様に3人に抱き着く。

 

「ねぇ、パパ。私もそっちに行っていい? もう疲れちゃったわ・・・・」

 

「何をレースルらしくない事を言っているんだい?」

 

「だって、宮廷には私の居場所はもうないわ。ヨーゼフが皇帝になった今は、帝妃はヨーゼファだし…私が居なくても、階下からは笑い声が聞こえるもの。ヨーゼフは私を煙たがっているし、私なんて居なくてもいいのよ」

 

「レースル、あれをご覧。帝妃は亡くなったよ」

父の指さす方を見ると、死神に抱かれたヨーゼファの姿がある。

 

「まぁ、可哀想なヨーゼファ。あの子は一度もヨーゼフから愛される事なく、あの世に旅立ってしまったのね・・・・」

 

「レースル、お前は本当に優しい子だね。パパの自慢の子だ」


「僕もだよ。レースル、君は自分を責めるけど、僕は十分君から愛を貰ったよ」

 

暫く愛しい者達に囲まれて懐かしい時を過ごすテレーゼ。

すると、力強く、でもどこか懐かしく温かい声が聞こえる。

 

「マリア・テレジアよ。 そなたは生き切ったか?私に嘘偽りなく、やり切ったと言えるか?」

 

「・・・・・?」

 

テレーゼは考える。 自分は考えうる全ての事をやってきたと思う・・・でも、未だ何かやり残した事がある様な気がする。

何だろう・・・・思い出せない・・・・・

 

すると、遠くの方から大勢の人の声が聞こえる

 

「テレーゼ様―っ!! どうか元気になって下さい」

「もう一度、お姿を見せて下さい」

「テレーゼ様、どうかこれからも私達を、ウィーンを見守っていて下さい」

「ママ、お願い、元気になって!!

 

「あっ・・・。私、まだやり残した事があるわ。 私、まだ愛しきっていなかったのよ!私の大切な国民に十分愛を届けていなかった。ううん、私の大切なハンガリー人や、チェコ人・・・それに、あの大変な時期に戦争もせずにいてくれたオスマントルコの兵士達。 私はもっともっとあの人達に愛を返さなくては・・・・。あぁ、私にはまだ愛する人達がいたわ!」

 

「パパ、ママ、フランツ・・・・もう少し待っていてね。 私、まだまだやらなくてはいけない事があるわ。 神様、私はまだ生き切ってない!どうか神の子としてこれからも道を誤らない様に見守っていて下さい」

 

「うむ。ではマリア・テレジアよ。行くがいい」

 

テレーゼは光の国を後にして、声が聞こえる方に向かって歩き始める。

 

「急いでレースル!夜が明けるぞ」


一度だけテレーゼは振り返る。

「ええ、有難う。有難う、フランツ!有難う、パパ、ママ!」


ふぅ・・・・テレーゼは目を覚ます。

 

「テレーゼ様が目を覚まされましたぞ!!

 

わーい、わーい

国民から歓声が上がり、教会の鐘が一斉に鳴り響く。

 

「テレーゼ様バンザーイ」

 

テレーゼは引退する事なく、この後ヨーゼフと共に共同政治を行う。

しかし、その後も息を引き取るまでの15年間、テレーゼは喪服を脱ぐことは決して無かった。

 

そして


やがてテレーゼに死が訪れると、テレーゼはフランツと一緒に葬られる。


テレーゼとフランツは今もウィーンにあるカプティーナ教会(カプチン教会とも表記)にあるハプスブルク家の霊廟で、フランツと同じ1つの棺の中で仲良く一緒に眠っている。


結婚式の日、神様に誓った約束。

愛はとこ永遠に…。


テレーゼのフランツへの愛は死さえも分かつ事は出来なかった。



愛は永遠に、フランツの死・完