ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
愛は永遠に、フランツ死す⑤
テレーゼは喪が明けても喪服を脱ごうとはしなかった。
テレーゼはフランツとの思い出の中にすっかり閉じこもってしまったのだ。
その内、ウィーンではまたもや天然痘が大流行し、ヨーゼフの妻ヨーゼファが罹病してしまう。
誰もヨーゼファの見舞いに行く人はいない。
普段から美しいとは言えないヨーゼファだが、天然痘に罹った彼女の顔は痘痕で埋め尽くされ醜く腫上り、近づくのさえ怖気づく様な形相になっていた。
(この家にお嫁にきたばかりに可哀想に・・・・)テレーゼはヨーゼファを見舞い、勇気を出して彼女を抱きしめる。
しかし、ヨーゼファを見舞ったのがいけなかった。
ヨーゼファを見舞ったばっかりに、これまで病気1つしなかったテレーゼも天然痘に罹ってしまった。
きっと、最愛の夫を失い、生きる気力も落ちていたのだろう。
テレーゼは生死の境を彷徨う。
宮廷もウィーンっ子もテレーゼを心配する。
太陽の様にいつも輝いていた女王様が・・・・太陽が沈む事はないと安心していたのに。
宮廷もウィーンっ子もフランツは入り婿であり、日本人的感覚で言えば、サザエさんで言うところの「マスオさん」だとばかり思っていた。
テレーゼあってのフランツだとばかり思って、フランツの事を大事にしてこなかった。
しかし、本当はフランツあってのテレーゼだったのだ。
フランツがいたからこそ、大国から狙われたオーストリアを守ると言う、絶体絶命を乗り越えたバイタリティーがあったのだ。
それだけではない。
フランツの死後、フランツの財産を調べると相当な額の遺産を残していた。
フランツの遺産でテレーゼの金庫の負債と国家の負債を埋めても、まだ余る程だった。
流石に当代きっての財政家だ。
フランツの遺産の残骸はハプスブルク基金に預けられる。
ウィーンっ子達は思う。
自分達はなんて大切なモノを失ってしまったのだろう・・・・。
そして今や女王様まで失おうとしている。
「テレーゼ様、生きてくれ!! 生きて自分達を抱きしめてくれ!!」国民は祈る。
全ての教会で祈祷が始まる。
つづく