ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
愛は永遠に、フランツ死す④
ウィーンに戻ってきたテレーゼは思う。
フランツと出会った日の事、フランツからプロポーズをされた時の事、結婚式の日の事、子供が生まれた日の事etc
どの瞬間も、テレーゼは幸せだった。
晩年、フランツは宮廷で最も魅力的なヴィルヘルミーネ嬢に心を奪われたが、そんな夫のささやかな裏切りさえも含めてテレーゼにはかけがえのない日々だった。
愛する者が側にいる事はなんと幸せな事だっただろう。
枯れる涙も無い位泣き明かしたのに、フランツの事を思い出すと、後から後から涙が溢れて来る。
「あぁ、私がインスブルックにしようとさえ言わなければ・・・・。私がいけなかったんだ、私がインスブルックにしようと言わなければフランツはまだ生きていたかも知れないのに。
きっと、フランツは身体が辛くてグラーツが良いと言ったんだわ。それを私がインスブルックがいいと言い張ったばっかりに・・・・どうしてフランツの身体の事を気遣ってあげなかったんだろう・・・・」テレーゼは自分を責める。
そしてテレーゼは思う。
「フランツは私と結婚して果たして幸せだったのだろうか・・・」と。
フランツは自分と結婚した為に祖国を手放さなければならなかった。
フランツはいつも笑っていたけれど、宮廷ではフランツはのけ者だった。
フランツは「宮廷とは彼女とその子供達の事を言うのさ・・・・」と言っていたらしい。
テレーゼの頭の中は、フランツへの申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
自分と結婚したばかりに、フランツには寂しい思いをさせてしまった。
そればかりか、フランツの浮気が心配で、フランツに自由に女性と話をする機会を与えなかった。
フランツは文句一つを言う訳ではなかったけれど、きっと肩身の狭い思いをしていたに違いない。
フランツと過ごした日々を思い出すと、自分はフランツを大切にしていなかったのではないか、と後悔ばかりが浮かんでくる。
フランツにはいつも我慢ばかりさせていた…私はフランツを不幸にしてしまったの?
だから神様は私からフランツを取り上げでしまったのかしら?
ふっ、ふぇ~ん(泣)・・・・・テレーゼは部屋に引き籠ってしまう。
テレーゼが悲しみに暮れている間に、ヨーゼフが皇帝となり、いまや息子夫妻を中心に宮廷は回っている。
自分は前帝の未亡人に過ぎない。
帝妃の間は息子の嫁であるヨーゼファに譲らなければならない。
自分の居場所は……もう、ない。
テレーゼは自室に閉じ籠もったきり、誰とも会おうとしなくなってしまった。
つづく