ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
愛は永遠に、フランツ死す③
1765年8月5日 挙式は行われた。
インスブルックでは結婚の祝賀行事が連日続きお祭り騒ぎだ。
街を挙げての祝祭も佳境となった8月18日。
この日はテレーゼとフランツ、ヨーゼフの3人で芝居を見に出かけた。
「何だかツマラナイ芝居ねぇ。私、先に帰るわね。フランツルとヨーゼフはゆっくりしていくんでしょ?」とテレーゼは一幕を見終えると、さっさと宿に帰える事にした。
「うん。僕達は最後まで観ていくよ、ねっパパ」
「あぁ、偶には息子と男同士、水入らずでのんびりするか」
「そう、それじゃヨーゼフ、パパを宜しくね。じゃあまた後でね、フランツル」
「あぁ…」
そんな軽いやり取りの後、テレーゼは一足先に滞劇場を後にした。
それから数時間経った。
結婚式にダンスパーティー等連日のイベント続きで疲れが出たのか、テレーゼがうつらうつらしていたその時だった。
テレーゼは外の騒々しさにふと目が醒めた。
「テレーゼ様!テレーゼ様、大変です。皇帝陛下が・・・」
テレーゼは胸騒ぎがする。
「フランツルがどうしたの?」
「こっ、皇帝陛下が先程逝去されました…」
テレーゼは頭が真っ白になり、何が何だか分からなくなる。
「なっ、何ですって?! フランツルが死んだって…嘘でしょ? 嘘よ、嘘よ、絶対嘘だわ。」
「いえ、残念ながら嘘ではございません。芝居が終り劇場を後にしようとロビーの階段を下りる途中で発作に見舞われまして・・・・ヨーゼフ様の腕の中に崩れ落ちる様に倒れたかと思うと、そのままヨーゼフ様の腕の中で息を引き取られました・・・・」
テレーゼは慌てて劇場に駆けつけようとするが、従者に止められる。
直ぐに、ヨーゼフに付き添われてフランツの遺体が運ばれて来る。
テレーゼは目の前の光景を受入れる事が出来ない。
「フランツル、フランツル、起きて頂戴!! 悪い冗談は止めて頂戴!目を覚まして、フランツルーっ。私を1人にしないでーーーっ!!」
フランツの亡骸にすがり付き、半狂乱になりながらフランツを揺り起こそうとするテレーゼ。
家臣達がテレーゼをフランツから離そうとするが、テレーゼは頑として離れ様とはしない。
すぐさま皇帝一家はウィーンの宮廷に戻る事となる。
皇帝一家の帰宅は葬列となってしまった。
インスブルックの観光名所の1つである凱旋門には不思議な彫刻が刻まれている。
表側には結婚のレリーフが、裏面には悲しみのレリーフ。
まさにこの時の出来事が門に刻まれているのだ。
つづく