ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
愛よとどけ!ヨーゼフの不幸な結婚④
愛するイザベラの死によって、ヨーゼフはますます皮肉な性格になり、傾倒していたプロイセン王フリードリヒそっくりになって行く。
「これではヨーゼフの美点が薄れていってしまうわ」
寄りに寄って、あの憎き大泥棒プロイセン王に似てくるとは!テレーゼは気が気ではない。
「恋の痛手は恋で解決するしかございません!ヨーゼフ様も未だ23歳。このまま独りで置いておく訳には…」
「そうですな!ハプスブルク家存続の為にも是非とも再婚して、跡継ぎを作って頂かなくては…」
直ちに、重臣達によって「ヨーゼフ再婚プロジェクト。ウキウキ婚活対策本部」が作られる。
(これで少しでもあの子の気持が明るくなるなら…)
テレーゼとフランツも加わって、ヨーゼフの再婚相手を探す。
だが……ヨーゼフの気に入りそうな王女は殆ど売却済。
「この王女の良いのは見た目だけねぇ・・・・」
「こちらの姫君は見目麗しいですが、イギリスとの結び付きが強いですからな。フランスとの関係を重視する当家には不釣り合いかと」
「この子は顔良し、性格良しだけれど、プロテスタントだし…」
うーーーーん、意外と難しいもんだわねぇ…。
「やはりお相手は、こちらの公女が妥当では・・・・」と最後に白羽の矢が立ったのは、バイエルン王女マリア・ヨーゼファだった。
「げっ、ヤダ! ヤダ!ぜぇーーーったいにヤダ! イヤです!!」ヨーゼフは抵抗した。
前妻の美しい、美しいイザベラに対して、マリア・ヨーゼファは美しくないばかりか、女性らしさや愛らしさに欠けていた。
「まぁまぁ、案外気が合うかも知れないし、一緒に暮らす内に情が湧いてくると言うものよ」
「そうさ、人間顔じゃないぞ、ヨーゼフ。尤もイザベラが美しい過ぎたんだ。良い夢を見たと思って諦めろ。この子だって、見ようによってはまんざら悪くもなさそうじゃないか」
テレーゼとフランツは息子の将来を憂い、何とかこの縁談を纏め様とする。
しかし…
「じゃ、父さん聞くけどさっ、父さんは母さんの何処が良くて結婚したのさ?」
「えっ⁈それは…美人だし、賢くて優しいし…あっ、イテっ」
「しっ…」と言わんばかりにテレーゼはフランツの足を蹴り、余計な事は言うなと目配せをする。
美しい亡妻が忘れられないヨーゼフには、外見の話しはタブーだ。
「ほらご覧よ。父さんだって見た目で決めてるじゃん‼︎僕は嫌だからねっ」
「大公殿下、我儘を言ってる場合ではございません!どうかハプスブルク家の為にもご決断を」
「い・や・だ‼︎」
ぶっすーーーっと横を向いてしまう。
しかし…
嫌がるヨーゼフを何とか説き伏せて、マリア・ヨーゼファを妃に迎える事に成功したものの、ヨーゼフは一度として新婦の寝室に向おうとはしなかった。
これでヨーゼフに後継ぎが生まれる可能性は完全に無くなった。
余談だが、長男ヨーゼフに嗣子がなかった事によって、ヨーゼフ亡き後は次男レオポルトが皇帝に即位し、その後はレオポルトの子孫に帝冠が受け継がれる事になる。
ヨーゼフは表向きには帝姫を迎えながらも、帝姫に触れる事なく、亡き妻との思い出を胸に生きて行くのである。
逆を言えば、妻となったマリア・ヨーゼファは温かい愛の言葉もかけられる事もなく、体裁上の帝姫としてその生涯を終えたのだった。
愛よとどけ!ヨーゼフの不幸な結婚・完