愛よとどけ!ヨーゼフの不幸な結婚① | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

愛よとどけ!ヨーゼフの不幸な結婚①

 

 

60年振りにハプスブルク家に生まれた男の子。

それが長男のヨーゼフ。

 

ヨーゼフの誕生によって絶対絶命、崖っぷちに立たされていたハプスブルク家は救われた。


ヨーゼフは希望の星だ。

 それだけに、ヨーゼフにかかる期待は、当然大きい。

 

テレーゼが大きなお腹を抱えて、地図を広げたテーブルの上に戦隊の模型を置き、元帥や軍事顧問達と共に作戦を練っていると、そのテーブルの下で、幼いヨーゼフが玩具の兵隊や馬で戦争遊びをしている。

 

「オーシュトリア部隊は前線に出陣! ザッ、ザッ、ザッ…あっ、目の前に歩兵隊が見えました。 ヒュ~っ、ドーン、プシュ~ 敵のぜんしぇんに大砲が命中しましたっ!!」ヨーゼフの頭の中の戦いは連戦連勝だ。

 

「おや、おや大公殿下は将来優秀な指揮官になれますな」テーブルの下を覗きながら、ブラウン元帥がヨーゼフを褒める。

 

「まぁ、この子ったら、大人しくしていると思ったらこんな所で・・・。私の賢い子、さぁ、抱っこしてあげるわね。」テレーゼは幼い我が子を抱き上げ、頬にキスをする。

 

テレーゼにとってヨーゼフは自慢の男の子だ。


しかし、我が子とは言え、ヨーゼフにはヨーゼフの人格がある。

いつまでもテレーゼの理想の息子ではいない。


確かに、成長したヨーゼフは啓蒙君主として優れた才能を持っていた。

 

しかし・・・・。

 

テレーゼはヨーゼフが成長するにつれ、我が子の中にプロイセン王フリードリヒの様な冷徹な面を見つけて愕然とする。

 

「おい、アレを見ろよ。またカウニッツのやつ水飲み様のコップで入れ歯を濯いでるぜ。うえ〜」

と兄弟達に目配せをしては、カウニッツの様子を真似て笑い転げる。


思春期になる頃には、考え方も冷ややかで、益々皮肉っぽくなり、宮廷に集まる誰かが失敗をすれば小馬鹿にして真似をしたり、年老いた大臣達の欠点をあげつらっては冷笑する様になる。


「まぁ、何て事でしょう‼︎ 君主たるものは全ての人を庇護すべきものなのに…あのままでは、プロイセン王の様な血も涙もない人間になってしまう」


テレーゼはハラハラし、心底震えてる。


そして、ヨーゼフが悪ふざけをする度に、その様な考え方では君主に相応しくないと諭す事が多くなっていった。

 

「僕が尊敬するのはプロイセン王さ。王は凄いよ。旅をする時も供なんて着けずに気ままに旅をするんだよ。僕も大きくなったら、大王の様に気ままな旅をするんだ」と生意気な事を言う。

 

事もあろうに、ハプスブルク家の大敵プロイセン王に傾倒するとは‼︎


その言葉通り、ヨーゼフは皇帝になっても気ままな旅をする。

 

妹のアントーニアを訪ねてヴェルサイユに行く時も、ロシアのエカテリーナ女帝を表敬訪問する時も、その他帝国領内を偵察する時もヨーゼフは必要最小限の供だけを連れて身軽に旅をした。

 

良く言えば合理的なのだ。


当時は大勢の供を従え、宮廷ごと旅先に移動させていては直ぐに国庫は空になってしまう。

節約したいのだ。


それに、仰々しく歓待されるのも煩わしい。


しかし、一国の君主が数名の供だけで旅をする訳にはいかない。

名門中の名門、ハプスブルク家の跡取りなのだから面子と言うものがある。


そこで.ヨーゼフは身分を隠して旅をする事にする。


昭和の国民的時代劇、水戸黄門の「越後のちりめん問屋の隠居」よろしく、ヨーゼフは「ファルケンシュタイン伯爵」という偽名を使って宮殿ではなく、いつも近くの宿屋に宿を取った。

 

なんだかお茶目な殿様である。


つづく