ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
あってはならぬ事~外交革命と7年戦争~③
オーストリアとフランスが手を組んだ!!
そのニュースが瞬く間にヨーロッパ中に広まった。
心底肝を冷やしたのがプロイセン王フリードリヒだった。
ある筈がない。いや、あってはならない事をあの女はまたやってのけた。
何という女だ…。
フリードリヒは先の戦いで、テレーゼが女だてらノコノコとハンガリーに乗り込んだ時も背筋を凍らせた。
「あの女は何をしでかすか分からない。恐怖だ、底知れない恐怖だ」
あの時、得体の知れない恐怖心を抱いたのは、この日を予見していたのかも知れない。
フリードリヒは皮肉を込め言い放つ。
「オーストリアにやっと真っ当な君主が現れたと思ったら、スカートを履いていた」と。
しかし、これは単なる皮肉ではない。
フリードリヒ一級の賛辞だ。
世の中の女を馬鹿にしていたフリードリヒだったが、テレーゼには一目置いたのだ。
「これこそが、生涯最高のライバルだ!」と。
程なくして、シュレージエン奪回をかけて7年戦争の幕が明ける。
今回の戦争は先の戦い(王位継承戦争)とは勝手が違った。
オーストリア軍は先の戦争とは比べものにならない位、格段に強くなっていたのだ。
プロイセン軍はオーストリア軍相手に苦戦していた。
オーストリアはフランスとロシアのエカテリーナ女帝と手を組み、西・東・中央と三方からプロイセンをじわり、じわりと追い詰めた。
テレーゼは常に妊娠していたから実際に戦場に出る事は出来なかったが、宮廷内部にある作戦本部で自ら地図を広げ、帝都から戦地へ作戦を送る。
ヨーロッパ史上に残る名君と謡われたフリードリヒも袋の鼠だった。
実際、フリードリヒは何度か死にかけた。
一度目はフリードリヒの騎乗する馬が狙撃された。
二度目は銃弾が心臓に当たった。
偶々左胸のポケットに入っていた嗅ぎタバコのケースに弾が当たった為事なきを得たという具合だ。
オーストリアは軍事力は脆い、かつてのオーストリアではなかった。
追い詰められ万事休すといったその時……事態は一変した。
つづく