ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
あってはならぬ事~外交革命と7年戦争~②
カウニッツは直ぐにヴェルサイユに乗り込み、信用できるスパイを使って情報を収集させる。
ロシアへの情報収集も怠らない。
ヴェルサイユではどうやら老齢となったルイ15世は政治に興味がないらしい。
政治を操っているのは寵姫のポンパドール夫人だ。
しかし、最終決定はルイが握っている。
ヴェルサイユは危険に満ち溢れている。
あちこちにスパイが潜んでいるし、これが二重スパイ、三重スパイだから決して安心してはいけない。
一歩踏み違えたら奈落の底・・・・地獄行き。
この計画どころか、オーストリアの存続さえ危機的状況となる。
ヴェルサイユの平土間は滑り易いのだ。
決して、同盟先をフランスに変えようとしている事を他国に知られてはならない。
いや、フランスにさえ、オーストリアの思惑を気付かれてはいけない。
向こうがその気になる迄は…。
カウニッツは用心深く探りをいれる。
用心深く…焦らずに。
その為、ポンパドール夫人に近づく為に相当経費も掛かっている。
当然、請求書はテレーゼの下に届けられる。
いや、それどころかカウニッツは体よくテレーゼにおねだりをする。
その度に、テレーゼは快くカウニッツのおねだりに応えるものだから、フランツは面白くない。
「レースルと来たら今日もカウニッツと2人だけで部屋に篭りっきりだ。仕事なのは分かるけど、こっちの気も考えてみろよ!その癖、僕が他の女性と少しでも親しげに話していると、さりげなく邪魔をしてかかるんだから…」
そう、テレーゼはフランツが浮気をしない様に、フランツにはある程度の自由に泳がせる。
そしてフランツが深入りする前に、フランツの気分を害さない様に、さりげなく浮気防止の紐を引っ張るから、フランツは決して成就されない恋が終わってしばらくしてから「やられた!」と気付くのが常だった。
テレーゼは抜かりがないのだ。
やがて苦心は実を結ぶ。
テレーゼが多額の資金をつぎ込み、カウニッツの活躍によってフランスは同盟先をオーストリアに変える事に決めた。
300年振りにフランスとオーストリアに和平が結ばれる。
300年…なんと長い年月だろう。
15世紀に、マクシミリアンがブルゴーニュ公国の姫と結婚した事によって、ヴァロア家vsブルゴーニュ公家の争いをハプスブルクが引き継ぐ形になった。
その間、フランス王朝はヴァロア家からブルボン家へ移っていた。
同盟に向けて様々な条約が結ばれ、両国の和平の証にブルボン家の王子とハプスブルクの大公女との結婚が取り決められる。
それが後のルイ16世とマリア・アントーニア(マリー・アントワネット)だ。
女帝の娘達の中で、最初に結婚が決まったのがアントーニアだった。
つづく