ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
あってはならぬ事~外交革命と7年戦争~①
テレーゼは片時も失われたシュレージエン(現在のポーランド辺り)の事を忘れた事は無かった。
かつての領民たちがプロイセン兵によってどんなに惨めな生活をさせられているか報告が届く度に、テレーゼは胸が潰れる思いで涙が止まらなかった。
1日も早くあの豊饒な土地を取り返さなくては!!
宮廷では毎日の様に官僚が集められ、シュレージエン奪回の為の閣議が開かれている。
「誰か良い案は無いの?」テレーゼは声を上げる。
しかし、継承戦争の時と同じく大臣達は誰も目を合わせようとはしない。
「ここはプロイセンと友好関係を保つことが最優先であるからして、シュレージエンの割譲は仕方がない事と思われます」と大臣達は判で押したように返答をする。
フランツも大臣達の意見と相違ないと言う。
「……」
誰か私と同じ思考を持つ人はいないのかしら。
そこへ、今まで話を聞いていたのかいないのか、ぼんやりと空を見つめていたカウニッツ伯が口を開く。
「これまで出来そうにないと言うだけで手を付けられないままでいた事がどれ程あっただろうか!」
「!!!!!!!」
居合わせた大臣達がいぶかしげにカウニッツを見るなか、テレーゼの顔色はパッと明るくなる。
周りの空気など気にしないかの様に、カウニッツは続ける。
「イギリスは友好的な振りをしているが、今まで一度もオーストリアの要請に応えた事はない。それどころか同盟先をプロイセンに変えようとしている情報迄ある。ロシアはプロイセンと敵対しており、フランスはプロイセンと同盟を組んでいるが何の利益も得ていない。
となると、我がオーストリアの同盟先はイギリスではなく、フランスに乗り換えるべきと考えられる」
「なっ、何を馬鹿な!」
「そうだ、15世紀から300年間ずっと敵対関係にあるフランスと今更手を組める筈はないだろう」
頭の古い大臣達は一様に声を上げる。
その様な中…
「きゃ~、カウニッツ、なんて素敵なの!! そうよ、私もそう考えていたのよ!! やっと意見が一致する人の出会えたわ~っ!!」
テレーゼは頬を上気させ、カウニッツの手を取らんばかりに大喜びをする。
「何だって?! そんなバカげた事、成功する訳がない」と一斉に抗議の声を上げる大臣達。
フランツに至っては、バツが悪そうにそそくさと会議室から出て行ってしまった。
ブーイングの嵐の中、テレーゼは、もはやカウニッツ伯しか目に入っていなかった。
この日からテレーゼとカウニッツの二人三脚が始まった。
つづく