ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争⑦
フリードリヒはさぞ悔しかっただろう。
このままオーストリアに男子が生まれなければ、それを理由に一気にハプスブルクの息の根を止める事ができたのに。
「今回も女が生まれればいい、いや、オーストリア女王など産褥の床で死んでしまえばいい」…そう願っていたのだから。
さて、
出産からほどなく経ち、出産の床を後にしたテレーゼはある事を思いついた。
「私、ハンガリー女王なのにハンガリーで戴冠式をしていなかったわ!」
テレーゼは宮廷の大臣達の事などとっくに見限っていた。
誰か私を助けてくれる人はいないかしら…と既に自分の中にあるものに目を向けたところ、見つけたのがハンガリーの存在だった。
「そうだわ!私のハンガリー貴族達に助けを頼めば良いんだわ」
テレーゼは早速乗馬のレッスンを再開する。
騎馬民族のハンガリー人は馬を友とし、その扱いが上手い。
ハンガリーで戴冠式を行うためには、ハンガリー女王に相応しい振る舞いが必要だ。
誰に対しても敬意を払うテレーゼは、相手が大切とする事を自分もまた大切にする。
男の君主の様に権力を振りかざしたり、暴力で相手を屈したりしない。
「相手に恥をかかせてはいけない」女性君主らしいやり方だ。
「ちょっ、テレーゼ様何をなさっているのですか?」
「危ないからおやめ下さいませ!!」
女王は気が狂ってしまったのではないか?と宮廷では色々な憶測が飛び交う。
しかしテレーゼは気にしない。
「どうらや女王様はハンガリーに応援を頼む気でいるようだ」
ハンガリーに救援?
まさか!!
ハプスブルク統治を嫌うハンガリー人は、ハプスブルク家に不振の念を持っている。
そんな所にのこのこと出かけて行って、彼らから追い返されるのがオチってものじゃないか!!
相変わらず大臣達は習慣を変えようとはしない。
つづく