ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争⑥
戦況は厳しかった。
オーストリア家を狙っていたのはプロイセンだけではなかった。
フランスもドイツもヨーロッパの全ての国が「さて、うちはどこの領地を頂こう」と舌なめずりをしながら狙っていた。
お情けにテレーゼにはオーストリア女王とハンガリー女王の王冠だけ残してやればいいさ、これが定評だったのだ。
同盟を組んでいたイギリスでさえ、テレーゼの前では「戦争を避けた方が賢明でございます」と同盟国面して進言する裏側で、プロイセン王と手を組んで、戦勝の暁にはどのような特権を貰えるのか交渉していたのだった。
四面楚歌!!!!
かつてオイゲン公が言っていた空中楼閣が本当になってしまった。
ハプスブルクの…いや、オーストリアの未来は、この23歳の女王の双肩にかかっている。
しかも、政治も戦争の経験もなければ、4人目の子供をお腹に宿した妊婦だ。
孤立無援となったテレーゼは、まさに絶体絶命だった。
唯一、オーストリアにとって幸運だったのは、冬が近づいていた事。
当時、冬将軍が到来すると春になるまで戦争は中断されるのが慣例だった。
そして、もう1つ。オーストリアには希望があった。
その希望とは、テレーゼの出産が近づいていた事。
1741年3月13日。テレーゼは男児を出産した。ハプスブルク家にとって60年振りの男児誕生となった。
「やったーっ!テレーゼ様に男の子が生まれた!!」
「これでオーストリアは救われるぞーっ!!」
ハプスブルク家の血を受け継ぐ正当な後継者が誕生した。
これでハプスブルク家は国際法違反だと言わせない。
男子継承者が生まれない事で普段から馬鹿にされていたウィーンっ子は自分の事の様に大喜びだ。
「ふん、これでオーストリアもズボンを履いたぞ!!」
テレーゼは誇らしかった。
傍らでフィクスィンがささやく。
「これでテレーゼ様はお勝ちになりましたね。女でしか出来ない方法でプロイセンに勝ったのでございます」
つづく